まるでスペインの輝く太陽。期待のピアニスト・ガルシア・ガルシアはユーモアも抜群
自由自在に動く、とっても大きな手指
ガルシアの手はとても大きい。広げたら、ラフマニノフみたいに1オクターブ半ほど、届きそうだ。 「ああ、日によるけど、ドから1オクターブ上のファかソまで届くよ。でも演奏では、手が大きいことより、中指や薬指が柔軟に間隔を変えられるので便利なんだ。ラフマニノフの難曲のように、手指の位置が絶えず変化する曲にもうまく適応できる。僕はどんな音楽のパッセージでもアイデアをまとめる術を学んだので、ほとんどの場合、運指について考える必要はなく、練習中に楽譜に運指を書くこともない。演奏ごとに運指が変わるのは、指のことを考えなくても弾けるから。薬指が特定の音符を手伝ってくれることもあれば、中指が助けてくれることもあるね」 オーバーアクションはせず、どの指も鍵盤に吸い付くかのようななめらかな動きだ。 ちなみに、特別なハンドケアはしてないそうだが、お気に入りのハンドクリームは、日本の自然派ブランド「SHIRO」とのこと。 「とても寒い日や極端に乾燥している日に使ってる。演奏旅行の必需品だよ。濃すぎず、バターみたいにベタベタせず、使い心地がいい」 ●「ショパンの主題による変奏曲」は、きっと日本人好み 東京公演のプログラムはショパン、モンポウなど変化に富んだ選曲だ。 「『即興曲』第1番~第3番と『幻想即興曲』は、僕が最もインスピレーションを得たショパン作品の一部です。単なる小品ではなく装飾芸術の傑作に仕上げている。この4作を通して良いムードが広がっていく…。『ソナタ第1番』は、若かりし時の作品とみなされて取り上げられないことが多いけれど、僕はとても独創的で成熟した作品だと思う。ショパンの言語が形成されていくのが聞こえてくるんだ。ベートーヴェンやシューベルトへの強い愛着が感じられる。最終楽章は悪魔的難しさだけど、プログラムの前半を締めくくるのにふさわしい。彼の他の2つのソナタは日本で演奏したことがあるので、このツアーでソナタ3作品の輪が閉じられる」 スペインの作家の音楽との組み合わせは、将来「スペイン曲のコンサート」を見据えての助走だろうか? 「僕はスペイン人なので、自国の最高の音楽をプログラムに盛り込むことに小さな義務を感じることがある。特にアルベニスは『イベリア』など、ピアノのための最高作品を複数生み出している。ロマン派以降のスペインの偉大な作曲家たちは、皆ショパンをロールモデルとしていて、特にモンポウはそうです。これらの素晴らしい音楽を演奏することは、ショパンやベートーヴェンのソナタを演奏するのと同じくらいエキサイティングです」 モンポウの「ショパンの主題による変奏曲」は、「前奏曲第7番」を駆使したユニークな変奏だ。日本ではこの前奏曲は、長年、太田胃散のCMでテレビやラジオで流れているので、クラシックファンでなくてもなじみがある。 「へえ、知らなかった。だったら、なおいい選曲になったね! 僕がこの曲を演奏するとき、お客さんがお腹を洗っている気分にならなければいいけど(笑)。CMだと曲の途中でカットされて完奏されないから、曲の締めくくりまで聴ける喜びをお客さんに味わってもらえるとうれしいな。この曲は、モンポウが尊敬するショパンへのラブレターのようなもの。僕の心と音楽の歴史において特別な位置を占めているんです」 彼のユーモアに「座布団3枚!」だ。 ●日本食が大好き。“すき焼き”は牛と豚を一緒に注文 日本についての感想も聞いてみた。 「日本の印象はとてもポジティブ。来るたびにその思いが強くなっている。毎回とても濃密な経験と活動が詰まってるんだ。東京は僕が世界で一番好きな都市。美しくて治安もいい、料理も毎回忘れられない。とても居心地が良くて、心が落ち着く」 日本食も大好きだという。 「とてもおいしい、並外れてる。お気に入りは毎日変わるけど、いつも食べたくなるのは“すき焼き”だね、僕は牛肉と豚肉を一緒に注文するんだ、“温かいご飯”もね。シンプルに“親子丼と味噌汁”も好きだな。味噌汁は家でも作ってもらってて、1週間食べないと寂しくなる。 11月のツアーで、新しいプログラムを紹介できることを大変うれしく思っています。きっと思い出に残るコンサートになると思います。私のコンサートに来てくださる皆さん、ありがとう。特別な体験を重ねてください。僕は日本に来るのが楽しみです!」 取材・文:原納暢子 マルティン・ガルシア・ガルシア ピアノ・リサイタル 11月2日(土) 14:00開演 福岡シンフォニーホール 11月3日(日) 19:00開演 サントリーホール 11月4日(月) 15:00開演 グランシップ・中ホール 11月8日(金) 18:30開演 札幌コンサートホールKitara 11月10日(日) 14:00開演 枚方市総合文化芸術センター 11月11日(月) 19:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール