独自の世界観、福島が原点 デビュー作「あたしの!」全国上映中 監督の横堀光範さん
主人公の少女が息を切らしながら懸命に自転車のペダルをこぎ、好きな人の元へ向かう。オレンジ色の夕日に照らされる横顔に、主人公の等身大の気持ちがにじみ出る―。福島県郡山市出身の横堀光範監督が初めてメガホンを取った映画「あたしの!」は8日、全国で上映された。光に登場人物の思いを乗せる独自の世界観が広がる。「福島で生まれ育った経験は、光で心情を表現する作風の原点になっている」と語る。 4歳まで郡山市で育った。福島市への転居を経て6歳から仙台市で過ごした。実家は農家で、幼い頃から自然が身近にあった。東京都のCM制作会社で助監督をしていた25歳の時に東日本大震災が発生。自分の人生を見つめ直すきっかけとなった。「やりたいことをやらないと亡くなった方に失礼」。会社を辞め、フリーで監督になる覚悟を決めた。 「映像で何が救えるんだろう」。甚大な被害を受けた古里を見て、迷いも生まれた。悩みを打ち明けた仙台市の親友に「震災時、ラジオから何気なく聞こえてきた音楽に感動した。君の仕事は、生きる上ですごく大事だ」と励まされた。映像を通して人々に夢や希望を与えたいと決意した。
今作はまっすぐな女子高生・関川あこ子と友人の谷口充希が、学校一の人気を誇る男子の御共直己(なおみ)を巡り親友同士の取り合いを繰り広げる。原作は「ヒロイン失格」「センセイ君主」などで知られる幸田もも子さんが「別冊マーガレット」で連載した同名少女漫画だ。県内では福島市のイオンシネマ福島、いわき市のポレポレシネマズいわき小名浜で上映されている。 夜の遊園地で輝くメリーゴーラウンド、水族館の水槽から差しこむ光…。映画ではきらめく光が登場人物の表情を照らし、喜怒哀楽を鮮明に映し出す。横堀監督が編集とカメラも担った。デビュー作として自分らしさを追及し、試行錯誤を重ねた。「その子にセリフがなく、表情は変わっていなくても、観客には何かが伝わる映像を作りたい。それが僕らしさ」 W主演を務めるあこ子役の渡辺美穂さん、直己役でグローバルボーイズグループINI(アイエヌアイ)の木村柾哉さんはいずれも映画初主演だ。渡辺さんを「命がけで演じることができる。主演の素質を持っている」と述べる。木村さんは誰よりも台本を読み込んでいたとし「私自身見習うことがたくさんあった。もっと彼の芝居を見たい」と話す。
今後は福島県を題材にした映画を撮るのが一つの夢だ。「いつか恩返しを」。古里への思いを胸に、これからも歩み続ける。 よこぼり・みつのり 郡山市出身。映画監督。これまでCM、MVなどを中心に手掛けてきた。主な作品はユニクロ、午後の紅茶、JRskiskiのCMなど。監督したマカロニえんぴつの「なんでもないよ、」のMVは動画投稿サイト「ユーチューブ」で5100万回以上再生されている。東京都在住。