日本の職場でおなじみのアプリも…従業員監視ソフトの「想像を超えた」実態、英調査報告書で明らかに
<従業員監視ソフトウェアを使用して、従業員のデジタル活動をほぼすべて追跡。マイクロソフトのTeamsもこうしたツールとして機能する>【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]従業員の自由とプライバシーを守る英国のキャンペーン団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ」は従業員監視ソフトウェア(ボスウェア)についての調査報告書をまとめた。企業が人工知能(AI)など最先端テクノロジーを使って従業員を監視している実態が浮かび上がる。 【動画】「50メートルごとに監視カメラ」...フランス人TikToker、中国のビーチで驚愕...動画に賛否 報告書によると、世界125カ国以上1万社以上が採用する米テラマインド社のソフトウェアを使用すれば、企業はライブ画面の表示、キー操作、閲覧したウェブサイト、ソーシャルメディア上のやりとりなど従業員がコンピューター上で行ったほぼすべてのデジタル行動を把握できる。 求人サイトへのアクセスや労働組合へのメール送信など、特定の行動を使用者に知らせる機能もある。企業は分析機能を使用して従業員がコンピューターを使っていた時間と休止していた時間を比較した生産性レポートを作成し、業務と関係のない行動を特定できる。 いわゆる生産性トラッキングだ。 ■GPSデータで遅延について配達員を詰問 パスワードなどの従業員のプライベートな情報が記録される可能性もある。テラマインド社は「無制限の監視」が目的ではないと主張しているが、従業員のあらゆるクリックやキー操作を監視しており、マンチェスターの不当解雇事案ではテラマインド社のソフトウェアが使われていた。 郵便・宅配会社ロイヤルメールは米ゼブラ社のPDA(携帯情報端末)を導入。この端末にはGPS(衛星利用測位システム)の追跡機能が搭載され、配達員の配達時間とルートを追跡する。開始時間と終了時間、ルートからの逸脱、配達の遅れなど大量のデータを収集している。 配達員はPDAのデータに基づき圧力をかけられたと証言。配達に時間がかかりすぎだと注意された人もいた。収集されたデータは配達員を詰問するために使用され、管理職による長時間の尋問につながった例もあり、英議会による調査が行われた。 従業員のデータが適切に保護されない限り、不当な監視につながりかねない。 ■従業員のパフォーマンスをリアルタイムで監視 アマゾンは倉庫における広範囲な職場監視で悪名高い。従業員はPDA、カメラ、リストバンドを組み合わせて厳重に監視されている。 振動で従業員に移動する正しい方向に誘導するブレスレット型トラッカーの特許を取得したが、英国の現場で使用されたという報告はまだない。 倉庫では従業員のパフォーマンスはリアルタイムで監視されている。「ピッキング率」と呼ばれる基準によって従業員は注意されるか、評価されるかが決まる。手持ち無沙汰にしているアイドリング時間も監視され、トイレ休憩がマイナス評価の対象となる恐れもある。 一般的に監視ツールから得られたデータは同僚とのパフォーマンス比較や長時間のアイドリング時間による自動的な懲戒処分など従業員の規律を維持するために使用される。このような環境は労働者から人間性を奪い、巨大なマシーンの歯車として扱っているという批判を招いている。 ■データ保護影響評価を従業員も入手できるようにすべきだ 広く普及しているマイクロソフト社のコミュニケーションプラットフォーム「Teams」は上司による従業員監視ツールとしても機能する。メッセージの送信数、スケジュールされた会議、通話時間など広範なデータを収集。管理職はこうしたデータから従業員の生産性を精査できる。 Teams を OneDrive や Outlook など他のソフトウェアと統合すればファイルの使用状況、電子メール、ウェブ閲覧を追跡できるようになり、監視レベルをさらに高められる。今回の報告書はテクノロジーによる従業員監視とプライバシー侵害、不当な懲戒処分の実態に光を当てた。 ビッグ・ブラザー・ウォッチのシルキー・カルロ代表は「バイオメトリクス技術、体系的な監視、自動化された意思決定、その他リスクの高いデータ処理を導入する使用者が作成しなければならないデータ保護影響評価を労働者や労組も入手できるようにすべきだ」と訴えている。