仲野太賀が表現する、大人の魅力と苦悩。「これがずっと続くのか…と思うと、大変だな(笑)」
自分にとって“演劇の父”である岩松さんの作品に、主演として出れることが嬉しい
仲野太賀さんが初めて岩松 了さんプロデュースの演劇に出演してから約13年。目標だったという主演という形で、再びタッグを組んだ舞台『峠の我が家』が上演中。今年で31歳を迎え、大人の魅力が増した仲野さんが演じる「安藤」という男が抱える苦悩をどう表現するのか、注目が高まります。今回、稽古真っ只中に行ったインタビューで、作品のことや稽古中のエピソードなど、たっぷりとお話しを聞いてきました。 【写真11枚】「仲良しの二階堂ふみちゃんと、10年ぶりぐらい?の共演も楽しみです」 〈全2回の前編/後編は記事下のリンクからご覧いただけます〉 -------- ──前回の『いのち知らず』から約3年ぶりとなる岩松 了さんとのタッグですが、最初に主演でのオファーを聞いたときの気持ちはいかがでしたか? 仲野さん(以下敬称略):すごく嬉しかったです。高校生のときから岩松さんの演劇に出させてもらって、当時はワークショップオーディションみたいな形で出演が決まったんですけど、そこから今に至るまでこれまで5作品に出させていただいて、与えられる役も少しずつ大人になっていっているという実感があります。 自分自身、俳優としての演劇のキャリアが岩松さんの作品と共に積み上がってきたというか、岩松さんの作品に育ててもらったという自負があるので、出会って10年以上経ち、自分も31歳になって、こういうタイミングで初めて主演作をいただけたことが、率直に嬉しかったですね。あまり人には言わなかったけど、目標のひとつだったので、夢が叶ったな、という感じがします。 ──仲野さんにとって岩松さんはどんな存在ですか? 仲野:もう勝手に”演劇の父”と呼んでいるんですけど、岩松さんは僕が息子だという認識はないと思います(笑)。演劇において、自分の原体験が岩松さんの戯曲だったので、そのときの衝撃はすごかったんですよね。今まで自分が触れてきたものと全く違うような、いわゆる分かりやすい話では決してないし、戯曲の奥深さや演劇の世界の楽しさを教えてくれた人ですね。 ──岩松さんの演出の部分で期待されていることや、稽古中に感じる新鮮さはありますか? 仲野:岩松さんの作品を見るたびに新しい仕掛けを感じるのですが、これだけ数多くの作品を作られている中でも更新し続ける姿は、表現者としてすごく尊敬しています。 今回演出として久しぶりに岩松さんの稽古場に来て感じたのが、もうとんでもなく早い。ものすごい速度で芝居が立ち上がっていきます。ひとつのシーンをひと通りやる上で、一回やって止めて、ここ直して、またその先やって…という細かい作業をするのですが、岩松さんの指示が早い中でも的確なんです。恐ろしい早さで芝居が積み上がっていくサマを見て、こんなに早かったけ?と思いました。超人的な演出力ですね。自分含め、みんなも必死について行っているので、もう稽古の様子も是非見てほしいぐらいです。 ──早い中でも的確なんですね。 仲野:的確で、脚本も読み応えが満点なので、様々な解釈ができるんです。岩松さんが一つ一つヒントのように動きを与えてくださり、どんどん役に肉が付いていく感じがあります。ご自身で書かれているにもかかわらず、「実際これはどういう意味なのか」と聞くと、岩松さんが「自分もわからないから、みんなで動きながら作っていきたい」とおっしゃっていて、そうやってみんなで作っていくのが楽しいですし、スリリングですね。 岩松さんの演出は、演出する言葉もすごく詩的で美しいんですが、その言葉に岩松さん自身も期待していない感じがするというか…何か形容できないものを見たいときに、その道筋を作ってくれる感じです。本当に自由度があります。とてもやりやすいし、色々なことを試せるなと思います。 ──今回、挑戦的だなと思う演出はありますか? 仲野:挑戦的かどうかでいうと、もうすべてが挑戦的(笑)。言葉で伝えるより、見て頂くのが一番早いと思います。 ◆僕が演じる「安藤」は、落ち着ける場所を探している男。演じるときはカロリーが要ります ──読み応えのある脚本とのことですが、最初に読んだときの感想は? 仲野:言葉にすると、今作はキャラクターの中に戦争の影を感じるというか、背景としてはその部分が大きいです。その上で人間がどういうふうに交錯していくのかということだと思うのですが、それぞれ傷がある人だったり、過ちを犯してしまった人だったり、そういう人たちが許しを求めながら惹かれ合っていく、そんな印象でした。それをわかりやすい表現で書いているわけではないので、そのキャラクターが何を思っているかとか、何を感じているかというのを、想像しながら見てほしいなと思います。舞台上にあるものだけじゃなくて、水面下にあるものを読み取りながら見てもらえると楽しいんじゃないかな。 ──仲野さんが演じられる「安藤」という役柄について、どう感じますか? 仲野:台本を読めば読むほどカロリーが要りますね。平常な精神状態ではないので、どこかずっと心拍数が高いというか、落ち着ける場所を潜在的に探しているような印象です。自分も演じていて、やはり落ち着きません。これがずっと続くのか…と思うと、大変だなと思っています(笑)。 ──岩松さんから「仲野さんには逸脱した男の色気を期待します」というコメントがありましたが、いかがですか? 仲野:稽古場では色気とかそういうことに関しては触れてこないので、「必要なのかな!?」とか、「色っぽくってなんだ?」みたいに思うときもあるんですけど、今は考えていないですね。劇場で確かめてもらえれば! ◆仲がいいふみちゃんとの共演なので、信頼し合っているからこそ思いっ切り芝居に飛び込める ──今作では二階堂ふみさんと共演されますが、ご自身でどのようなケミストリーに期待されていますか? 仲野:お芝居でご一緒するのが、10年ぶりぐらい?ですごく久々なんですよ。それはもう楽しみですし、一緒にお仕事していない間のふみちゃんの大活躍はもちろん見てきているので、舞台上でセリフを交わし合う時間が楽しみですね。元々すごく仲良しなので、惹かれ合うような役をやるのがこっ恥ずかしいかなと思ったんですけど、いざ芝居が始まればそんなことは全然なくて、信頼し合っているからこそ飛び込めるものがあるなと思っているので、思いっ切り飛び込んでいきたいですね。 ──映像作品と舞台作品での共演という点で何か違いはありますか? 仲野:ひとつの脚本に一緒に向き合っていく時間の長さが違うかな。でも何もかも違うかな。目の前にお客さんがいるいないもそうだし、1回やった芝居はもうしないっていうのが映像作品だけど、演劇はひとつの台本を1~2ヶ月かけて作り上げていくので、やっぱり信頼関係がすごく必要だし、没頭できますよね。 ──稽古中におふたりで話し合ったりはしますか? 仲野:役についてはないですけど、1日に5,6時間ぶっ通しで稽古をしてヘトヘトになるので、お互いを労わり合っています。おいしいもの食べに行こうね~って(笑)。 ──二階堂さん以外にも共演者の皆さん個性豊かな方々ばかりですが、印象などいかがですか? 仲野:皆さん悩みながらも楽しそうにお芝居されている印象です。舞台はキャストの人間関係も大事じゃないですか。今回は和やかな雰囲気で、素敵なメンバーでご一緒できて幸せです。 ◆岩松さんとお仕事をすると、自分も知らなかった新しい扉を開いてくれる ──岩松さんは演出家として接するときと、共演者として接するときで違いはありますか? 仲野:昔はもうちょっと違うなって気がしたけど、今はそこまで違うなと思わなくなってきましたね。あ、でも目が違います!演出されているときの眼差しの鋭さは、全然違うかもしれないですね。 ──演出を受けるときに怖さみたいなものはありますか? 仲野:ありますね。悪い意味ではなく、ダメ出しの多い少ないが人によるんですよね。僕は比較的少ない方な気がするんですけど、それはダメじゃないというわけではくて、泳がされているというか。芝居が良くなるのを待っている感じ。何も言われないけど、良いとも言われないみたいな(笑)。たまに言ってくれるときもあるんですけど、基本的には泳がされています。だからダメ出しがあってもなくても、怖いんです。 ──初めて岩松さんと演出家としてタッグを組まれたときと今とでは、何か変わったことはありますか? 仲野:あんまり変わらないですね。昔はもうちょっと言われていたような気もするんですけど、今も全く言われないわけじゃないですよ!今も昔も泳がされています(笑)。 ──では、わりと自由な中でお芝居が出来上がっていく感じなんですね。やはり演技の幅も広がりますか? 仲野:本当に岩松さんとご一緒すると、広がります。自分が持ち合わせている幅を、作品ごとに広げて模索するんですけど、岩松さんの演出を受けると、こんなところに扉があったんだ!みたいな感覚で、新しい扉を開いてくれるんですよ。その手があったか!っていう。新しい扉を毎回開いてくれるのが、本当にすごいです。 ----------- 演技の幅を広げてくれるという岩松さんの作品に、ついに主演としてご出演される舞台『峠の我が家』。俳優としてますます大きな存在感を発揮している仲野さんの、新しい表現を堪能できる今作は必見です! インタビュー後編では、お仕事論やプライベートなお話も伺っています。 下のリンクからぜひチェックしてください!