錦織はなぜ全仏ベスト16で敗れたか? あぶり出された課題とは
1時間後に試合が再開されると、雨による変化がより顕著になったコンディションの中、より攻撃的になったガスケに対し、錦織ははじめの作戦に執着しすぎたのではないか。 これでもかと言わんばかりに、より強く回転をかけようとし、より厳しいコースでウィナーを狙おうとして、通用しない苛立ちとミスの多発につながった。本来、多彩なショットを操る錦織は引き出しが多く、修正力の高さで劣勢の試合を覆し、窮地をしのぐ。なぜ今回は修正できなかったのか。 ヒントになることを2回戦のアンドレイ・クズネツォフ戦のあとに言っている。 「向こうが前に入っていいボールを叩いてきていたので、打ち合いをあきらめて……男としては辛い判断でしたけど、高いボールを混ぜたりしてテンポを変えるようにした」 男として辛い、と言ったあとインタビュールームには笑いが起こったが、おどけたフレーズの中に錦織のテニスコートでの性格が表れていた。男として、つまり本能的にはペースを変えて相手を揺さぶるような戦法ではなく、力と力で打ち合ってウィナーを取るというテニスをしたいのだ。クズネツォフ戦では不本意ながらもその性格をしまい込むことができたのに、ガスケに対してはできなかった。 それは、「力の勝負をしたい」相手の一人だからではないか。このところ2連勝していたとはいえ、長年勝てなかった相手であり、18歳のとき東京で初めて対戦して完敗したときは「尊敬しすぎてしまって…」と印象的な言葉も飛び出した相手である。 錦織は「晴れていれば、もっと速い展開もできた。そこの調整ができてなかったのが敗因です」と語った。 今大会中の悪天候は予報を見るだけでわかったことだ。雨の影響下での第2、第3のオプション対策を練らなかったはずはないだろう。作戦はできていたのだとしたら、あとはそれを遂行する力……具体的には、重いボールを扱うだけのパワーがまだ十分ではなかったということか。 週間天気予報は明日以降も雨マークが目立つ。たとえガスケ戦を乗り切っていたとしても、このコンディションで準々決勝、準決勝と突破するのは非常に厳しかった。最近では、錦織にメジャー制覇のチャンスが大きいのは、彼が慣れ親しんだハードコートではなくクレーコートと考えられているが、雨という大敵を軽視していたかもしれない。 5月のパリは1年でもっともいい季節と言われていたのに、近年はこの時期に長雨が多くなっている気象の変化も気になる。センターコートに開閉式の屋根がかけられるのは2020年以降だそうだ。待ってはいられない。その間に、錦織自身がまた自力で前に進むのだろう。これまでも、一朝一夕にいかない難問を地道にクリアし、ここまで登ってきたように。 (文責・山口奈緒美/テニスライター)