錦織はなぜ全仏ベスト16で敗れたか? あぶり出された課題とは
パリは今日も一日中雨に濡れていた。前日、錦織圭を苦しめ、苛立たせた雨だ。 「ベスト4、決勝にいける可能性を感じていた」という全仏オープンで錦織は、地元フランス人で世界ランク12位のリシャール・ガスケに敗れてベスト16に終わった。 ガスケの武器の一つは片手打ちの強烈なバックハンドだ。しかし、高い打点が泣きどころの片手打ちバックハンドにはボールが弾むクレーコートは不利と考えられている。ロジャー・フェデラーも09年に優勝しているとはいえ、グランドスラムで一度しか優勝していないのはここだけだ。昨年はやはり片手打ちのスタン・ワウリンカが圧倒的な強さで優勝し、〈定説〉を覆したが、それでもやはり片手打ちの選手に対しては、強くトップスピンをかけたショットでバック側を狙うというセオリーは大きく変わっていない。 錦織は今年のクレーのマスターズ2大会でいずれもガスケを下したが、そのセオリーがハマったように見えた。それまで6連敗していた難敵を完全に封じ込め、勝ち方を体得した自信があったはずなのだが、その計算を狂わせたのが雨だった。クレーコートでは少々の雨でもプレーが続行される。水を吸って重くなったボールはスピンがかかりづらく、また、湿ったコートではバウンドが抑えられてしまう。ガスケにとっては対処が困難どころか、むしろ打ち頃のボールとなった。 それでも試合序盤はまだ良かった。これまで全仏では4回戦を突破したことがないガスケを、錦織は得意の速い攻めで揺さぶり、第1セットは4-2とリードしていた。しかし第7ゲームのサービスゲームの途中で急に強まった雨により、デュースになったところで一時中断。この中断が試合の行方を完全に変えることになる。ガスケはあとでこう言っている。 「中断はとても重要だった。それまで僕はベースラインの後ろのほうに下がっていて、展開の遅いテニスをしていた」 そこを指摘したのがガスケのコーチで、90年代半ばに全仏2連覇を果たしたセルジ・ブルゲラだった。 「トップシードの選手に勝つには、彼らがどんどん上げてくるペースについていかないとダメだ。ベースラインから下がらず、深いところを狙ってボールを引っ叩け」