社説:東証の取引延長 信頼性向上も問われる
東京証券取引所はきのうから、現物株の取引時間を30分間延長し、午後3時半までとした。 終了時間の延長は1954年以来、70年ぶりである。投資家らの取引の機会を広げることで、市場の活性化が期待されよう。 一方、東証社員ら監督する側のインサイダー取引疑惑といった不祥事が相次いでいる。 公正で迅速な企業情報の開示と併せ、市場の信頼性の向上も問われている。 今回の時間延長は、2020年10月の大規模なシステム障害で、取引が終日停止となったのが契機だ。同様のトラブル発生時でも、復旧作業後に取引を再開できる可能性を高める狙いという。 ただ、延長による計5時間半の取引時間は香港と並んだが、ニューヨークの6時間半、ロンドンの8時間半など海外の主要市場に比べ、見劣りは否めない。 小幅延長にとどめた東証が国際競争に対応するには、それ以外でも海外投資家らが参加しやすい環境整備が重要といえる。 課題となるのが、上場企業の情報開示の分散化だ。決算や人事など重要情報では従来、取引時間中の発表による過度な株価変動を懸念して終了時刻に集中している。今年4~6月期決算の発表は午後3時以降が8割超だった。 東証は、分散化すれば投資家が時間をかけて情報を分析できるとし、時間延長を機に前倒しを要請。ホンダなど一部が応じるが、様子見も目立つ。時差のある海外からの投資拡大も視野に、戦略的に取り組む問題だろう。 見過ごせないのは、前提となる市場への信頼が揺らいでいることだ。先月、企業の「適時開示」担当の東証社員が、未公開情報を親族に漏らしたインサイダー取引容疑で証券取引等監視委員会から強制調査を受けたことが発覚した。 これまで不正対策は主に上場企業の役員、社員らが対象で、取引管理の「中枢」の違法行為は想定外の異常事態だ。他に、金融庁に出向中の裁判官や、証券代行業務を担う信託銀行員のインサイダー取引疑惑も浮上している。 東証は調査検証委で不正問題に取り組むとした。管理体制や教育研修の抜本的強化が求められる。 「貯蓄から投資へ」を掲げる政府の税制優遇などで個人の市場参加が増える一方、株価の乱高下や不祥事により、戸惑いや不信の声が広がっている。公正な市場ルール徹底とともに、投資リスクも教える金融教育が欠かせない。