「ラモスさんやカズさんから受け継いだモノ」。OB監督の下で勝負強さを取り戻す! 15戦無敗の東京Vユースが3節残して悲願のプリンスリーグ関東1部制覇!
[10.6 プリンスリーグ関東1部第15節 東京Vユース 2-1 帝京高 ヴェルディグラウンド] 【写真】Jリーグ歴代最強の助っ人…元浦和エメルソン氏の現在の姿に反響「うおお」「随分…」 圧倒的な強さで駆け抜け、歓喜の瞬間を迎えた。 10月6日、U-18高円宮杯プリンスリーグ関東1部が各地で行われ、首位の東京ヴェルディユースは6位の帝京高と対戦。後半開始早々に一度は追い付かれたものの、直後にエースのFW川村楽人(3年)が奪ったゴールを守り切って3試合を残して優勝を決めた。 前節、桐蔭学園に2-0で勝利し、3位までに与えられるプレミアリーグ参入プレーオフの出場権を手にしていた東京Vユース。今節は前日の試合で3位の浦和レッズユースが勝利したため、引き分け以上で自力優勝が決まるなかでキックオフを迎えた。 序盤から主導権を握った東京Vユースは今季の強さを象徴するように、強度の高い守備と自慢のパスワークで相手を圧倒する。 基本陣形は4-2-3-1だが、守備時は最前線のFW土屋光(3年)とトップ下のMF井上寛都(3年)が前に並ぶ形でプレスを敢行。左WGのFW川村、右WGの半場朔人(3年)や、ボランチのMF粕谷晴輝(3年)がうまく連動してミドルゾーンで相手のボールを刈り取る。そこから遅攻と速攻を織り交ぜながら相手ゴールに迫り、9分には土屋のスルーパスに抜け出した井上が、相手GK大橋藍(3年)を冷静に外してネットを揺らした。 30分を過ぎた頃から帝京の反撃を浴びてしまったものの、リーグ最小失点を誇るチームを支えてきた坂巻悠月(3年)、川口和也(3年)のCBコンビが奮戦。ゴール前で身体を張った守備を見せ、相手に得点を許さない。 1-0で迎えた後半は再び主導権を握り返したかに見えたが、4分に一瞬の隙を突かれてしまう。右サイドを突破したMF小林爽人(2年)にクロスを入れられると、ニアサイドでFW土屋裕豊(3年)に合わされて試合を振り出しに戻された。 だが、簡単に崩れないのが今年の東京Vユースの強みだ。気落ちせずに再びゴールを目指すと、直後の7分にエースが大仕事をやってのける。井上が右サイドからインスイングのボールをPA内に入れ、左サイドから中に入ってきた川村が右足を振り抜く。豪快に蹴り込み、優勝に手繰り寄せる一撃を決めた。 以降は攻撃の手を緩めず、後半だけで14本のシュートを見舞った東京Vユース。好機を生かせず、終盤は相手に攻め込まれる時間帯もあったが、ゴール前で決定的な仕事を相手にさせず逃げ切った。 コロナ禍の影響で1回総当たりとなった20年度に制した経験を持つが、東京Vユースにとってフルシーズンでの優勝はプレミアリーグから降格した14年以降で初めて。薮田光教監督は「参入プレーオフ進出は決まっていたので、ここからは本当に1試合1試合がそこを想定した戦いになると選手に伝えていた」としつつも、「最後まで集中していたし、勝ちたいという想いが本当にプレーに出ていた。本当に応援したいという気持ちにさせてくれたので、これを続けていけたらもっとレベルアップしてくれる」と選手たちを労った。 東京Vユースにとって、この10年間は苦難の連続だった。11年にプレミアリーグが創設されて以降、毎年のように優勝争いを繰り広げ、2012年にはEASTを制覇。だが、2014年に降格。以降はプリンスリーグでの戦いを余儀なくされ、参入プレーオフも2016年を最後に遠ざかっていた。 そうした状況下で中後雅喜前監督からバトンを受けたのが、クラブOBでユース出身者でもある薮田監督だった。昨季、コーチから指揮官に昇格すると、伝統のテクニカルなスタイルを大事にしつつも、勝負にこだわる姿勢を徹底。「そこは常に言ってきました。自分がそれで育ってきたから。ラモスさんやカズさんから受け継いだモノはユースの子にもどんどん伝えてあげたい」という想いで、選手たちと向き合ってきた。 そうした成果は身を結び、チームは開幕から15戦無敗。14勝1分という圧倒的な数字で優勝に辿り着いた。練習の雰囲気も今季はさらに良くなり、誰もが勝つことに対して強い執念を示すように。些細な勝負でも負けたくないという感情が随所に見られ、井上も今季のチームについてこう語る。 「練習から勝負にこだわってきた。ミニゲームでも負けたくない。その気持ちはみんなに浸透している。今年は負けず嫌いの選手が多いけど、普段から薮田さんも厳しいので」 ヴェルディらしさ=勝負へのこだわり――。指揮官はその類の質問に対し、常々技術ではなくメンタリティーの部分に触れてきた。勝つための執念は練習内容にも現れており、一昨年までは“走りの日”は設けていなかったが、昨季からは水曜日にフィジカル強化の目的で様々なトレーニングを実施。夏にも4日間ほど体力強化の合宿を行い、午前の1時間はスプリント系や走力強化に特化した場を設けた。コンディション管理も担当する石井寛也トレーナーが組む過酷な練習にも音を上げず、誰もがサボることなくメニューを完遂。「めちゃくちゃきつかった」と笑顔を見せたキャプテンの坂巻もその1人で、チームで最も“走り”を苦手としていた男は背中で示すべく、誰よりも率先して取り組んだ。 夏を過ぎても勢いが衰えなかったのは、地道な取り組みの成果だろう。 元々、中学3年次には夏のクラブユース選手権(U-15)でベスト4に入った世代で期待値は高かった。だが、テクニックだけにならず、戦う姿勢や献身性を備わったことで大きな成果を得たのは間違いない。 次なる目標はプリンスリーグの無敗優勝を果たし、参入戦を制しての14年シーズン以来となるプレミアリーグ復帰だ。ジュニア年代からともに戦い、仲間たちよりも一足早くプロ契約を結んでトップの活動に専念しているMF山本丈偉(3年)への想いもあるだけに負けは許されない。 「昔からやってきた仲間のひとり。丈偉にも良い景色を見せてあげたい」とは川村の言葉。先週、山本は鎖骨骨折を負って今季絶望となったため、同じピッチで戦うことができなくなった。10番のために――。“強いヴェルディ”を取り戻すべく、最終盤に向けてさらにギアを上げていく。 (取材・文 松尾祐希)