<精神科医・和田秀樹>「日本の健康診断は長寿に結びついていない」と断言する理由。ただひたすら患者の血糖値を下げようとする医者は「バカ」
『60歳から女性はもっとやりたい放題』#4
健康診断で異常だと判断されれば、誰しも薬を飲んで正常値を目指すであろう。だが健康診断で正常だとされている数値を盲目的に目指すことは、ときに危険な結果を招くかもしれない。 【画像】健康診断がわりの病院通いがなくなることで病気が減った市町村 書籍『60歳から女性はもっとやりたい放題』より一部抜粋・再構成し、正しい数字との向き合い方を指南する。
薬漬け医療に拍車がかかる理由
私自身はできるだけ患者さんの薬を減らせるよう、勉強を欠かさないようにして知識を増やす努力をしていますが、どうやらそういう医者は稀なようです。 学会などに行っても、新しく開発された薬の効果の話ばかりで、薬を減らす方法などまったく議論される気配はないですし、それについて教えてくれるようなこともありません。だから結果として薬漬け医療に拍車がかかっているのだと思います。 また、健康診断をせっせと受けることも、実は薬漬けになる理由の一つです。 例えば、一般的に血圧は140/90mmHg未満が正常域とされるので、健康診断を受けてそれより高い血圧が測定されると、医者によってはすぐに降圧剤を処方するケースがあります。 血糖値も同様で、空腹時血糖値は100㎎/dl未満が正常域とされ、126㎎/dl以上となると糖尿病を疑われ、これまた薬を飲みましょうという話になったりします。 つまり、特に不調を感じているわけでもないのに、「異常」だという検査結果が出てしまうと、その数値を正常に戻すためだけに薬がどんどん処方されるのです。
まったく意味のない日本の健康診断
日本の健康診断では「正常」の数値を「健康と考えられる人の平均値」をもとに相対評価で決めているので、それぞれの体質や生活状態は加味されません。 だから正常値であっても病気にならないわけではなく、異常値とされた人が病気になるという明らかなエビデンスが存在しない診断なのです。 しかも、健康診断の検査データが正常になったからといって長生きできるというわけでもありません。 労働安全衛生法が施行され、会社が従業員に健康診断を受けさせることが義務化されたのは1972年なので、今の平均寿命くらいの80代の男性の多くは、若い頃から毎年健康診断を受けていたはずです。 一方、80代の女性は専業主婦やパート勤めが長かった人のほうが多いので、大半の女性はほとんど健康診断を受けていません。 ところが1970年代と現在とで比較すると、平均寿命の男女差はむしろ大きくなっています。健康診断が本当に役に立つのなら、ずっと受け続けている男性の平均寿命はもっと延びてもいいはずなのに、現実にはあまり健康診断を受けていない女性の寿命のほうが延びているのです。 健康診断を受ければ、何らかの数値に異常が出ないことのほうが珍しいのでしょうから、結果として余計な薬を飲まされ、寿命が延びない―。 健康診断というものが、一切結果につながっていないのは、まさにそれが原因なのではないでしょうか。 また、高齢者の多い夕張市では大きな市民病院が廃院になり19床の有床診療所となってから、かえってがん、心臓病、脳卒中による死亡が減り、老衰で亡くなる人だけが増えるという現象が起きています。 「夕張パラドックス」と呼ばれるこの有名な現象も、健康診断代わりのようなこまめな病院通いが、メリットどころかデメリットをもたらす可能性をよく示唆していると思います。