片道120km以上の通勤者、コロナ禍で「3割以上」増加の衝撃! 米国研究で明らかに しかしそれは幸せなのか?
スタバCEO、エコと炭素排出の矛盾
米国では最近、究極の“スーパー通勤者”が現れた。 世界最大のコーヒーチェーン、スターバックスの新たな最高経営責任者(CEO)、ブライアン・ニコル氏は、カリフォルニア州ニューポートビーチの自宅からシアトルの本社まで、スターバックスの社用ジェット機で片道1600kmの空の旅をして通勤している。 スターバックスでは、CEOは週に3日以上シアトルの本社に出社することが求められており、ニコル氏はシアトルでの住居を検討中だ。しかし、当面はカリフォルニアの自宅から出勤するために会社のジェット機が提供された。 シアトルとニューポートビーチ間の飛行は通常2.5~3時間かかり、まさに究極のスーパー通勤といえる。 スターバックスは紙のストローをいち早く採用するなど、エコな企業として知られているが、膨大な量の二酸化炭素を排出するジェット機を通勤に使うことに対する疑問の声もある。 サステナビリティを推進している企業として、炭素排出に無頓着に思えるCEOのジェット機通勤は確かに疑問を禁じ得ない。もしかすると、このジェット機通勤の炭素排出量を相殺するために、同企業はカーボンオフセットにも取り組むべきかもしれない。 また、“スーパー通勤者”の長距離ドライブは、コロナ禍で1度は大幅に削減された炭素排出量を再び増やす要因になる可能性もある。確かに在宅勤務の定着により、全体の交通量がコロナ禍前に戻ることはないと思われるが、大幅に減った炭素排出の削減分を理由に、“スーパー通勤者”が無遠慮に炭素を排出しているようにも見える。
郊外暮らしのトレードオフ
この点、日本の長距離通勤は鉄道利用が主であり、炭素排出量の観点からはあまり問題視されない。2019年10月に英ロンドンのマーケティング企業「カンター(Kantar)」が発表した調査では、東京は世界で最も“エコフレンドリー”な通勤環境を整えた都市と報告されている。 しかし、その一方で、終電が早まるなどのダイヤ改正の影響が大きくなっている。コロナ禍以降、多くの通勤者は自然とワークライフバランスを考えざるを得なくなった。 ワークライフバランスは“トレードオフ”の関係でもあり、何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。 コロナ禍後、“スーパー通勤者”は郊外に住みプライベートを充実させている様子が見えてくる。この研究を行ったスタンフォード大学の経済学者、ニコラス・ブルーム氏は、多くの“スーパー通勤者”がこのようなトレードオフをしていると指摘している。 通勤時間が短い窮屈なアパートに住むか、郊外の広い家に住んで週に数日だけ長距離通勤をするかは、もちろん個人の判断による。自分の仕事スタイルがどちらに合っているのかを慎重に見極める必要があり、いずれは状況が変わる可能性も考慮に入れておくべきだろう。
仲田しんじ(研究論文ウォッチャー)