芸術に触れ、地域に目を向ける機会に 「響きあうアート宗像」/福岡県宗像市
強風に吹かれながら、作品としばらく向き合ってみる。1匹の犬が近づいてきた。そばの牧場で飼われているウメという名の雌の犬で、観光客にもかわいがられているようだ。「作品から何かを感じ取らなければ」という無言の圧力の中、”彼女”が登場したことで気持ちが楽になった。
この作品に限らずだが、作者の意図などを記した説明板はほぼ見当たらない。武藤さんによると、「言葉で表現するのが苦手」という作家が多いこともあるようだが、「そもそも、見る人にこう感じてほしいと思って制作したものではなく、先入観なく自由に解釈して今の自分と向き合ってもらえれば」という思いがあるからだという。
正午を回り、島を離れて鎮国寺へ。ここは空海が806年に開いたとされる真言宗最古の寺。世界的彫刻家の故・豊福知徳さんの作品が数点展示されていた。古寺と芸術が織りなすコントラストと調和を楽しんでほしいという。
最後の目的地は赤間地区。江戸時代に建てられた旧家を利用した店舗などに作品が並ぶ。最初に目に飛び込んできたのは、巨大な拳の形をした屋外の作品。まるで天から地に振り下ろされた怒りの鉄拳のようだ。
旧街道と現代アート。意外性のある作品との出会いにワクワクする一方、かつて菓子の製造販売をしていた「桝(ます)屋」をはじめ、このイベントがあるからこそ立ち入れる古民家も魅力的だった。幕末の志士らが歩いた街並みを、往時をしのびながら散策する時間も心躍るものだった。
それぞれの感性で
武藤さんの話でとくに印象的だったのは、フランスでモネの絵画を目にした時の思い出。絵を前に涙が止まらなかったという。「自分でも分からない。絵から何か出ているんじゃないかな」と笑う武藤さん。人生を左右する巡り合いの一つになった。
そんな武藤さんに「何か”ピン”とくるものを見つけ、自分なりの見方で味わって」とアドバイスを受け、作品の前に立ってみる。しかし頭をよぎるのは、どの角度から撮るか、どういう光線なら最も効果的な1枚になるか、という写真撮影の思考ばかり。作品が発するメッセージを受け止める感性が自分には足りないのかと不安にもなる。