『たとえあなたを忘れても』シャボン玉のような美璃と空の“幸せ” 気になるタイトルの意味
『たとえあなたを忘れても』(ABCテレビ・テレビ朝日系)を観ているとき、頭のなかにMr.Childrenの「Sign」の一節が流れる瞬間がある。 【写真】ずぶ濡れの空(萩原利久)を後ろから抱きしめる美璃(堀田真由) <残された時間が僕らにはあるから/大切にしなきゃと 小さく笑った> 病と闘う人物を主題としたラブストーリーは、最終的に“死”が2人を分かつものが多い。ほんの少し考えただけでも、『世界の中心で愛をさけぶ』(2004年)や『僕の初恋をキミに捧ぐ』(2009年)、『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(TBS系)など、たくさんの名作が浮かんでくる。 しかし、『たとえあなたを忘れても』の場合は、空(萩原利久)が死ぬわけではない。もちろん、人はいつか必ず死ぬものだし、絶対なんてことはないのだが、空と美璃(堀田真由)には残された時間がある。 空がふたたび記憶をなくしたとき、茜(畑芽育)が美璃に「こういう場合の最悪って、なにかな。空が死ぬことやない? けど、生きてるやん」と声をかけていたことがあった。この台詞を聞いたとき、「たしかになぁ」と思った人も多いのではないだろうか。それこそ、「Sign」の歌詞にもあるように、「残された時間がたっぷりあることに目を向けるべきなのでは?」と。 しかし、それは冷静に状況を判断できる第三者だから思えることなのかもしれない。もしも、自分が美璃の立場だとしたら、どうだろう。愛し合った相手が、急に「初めまして」と他人行儀な態度を取ってきて、「待って、わたしたち付き合ってたんだよ?」と伝えたら「なに言ってんの、この人」と怪訝な顔で見られる。まるで、ひとりでブラックホールのなかに放り込まれたかのような孤独を感じてしまうと思う。
空(萩原利久)とともに綱渡りの日々を歩んでいく覚悟を決めた美璃(堀田真由)
「どうして思い出せないの?」「お願いだから、思い出してよ」。そんな怒りをぶつけたくなってしまうこともあるだろう。ただ、美璃にはそれも許されない。空が悪いわけではないし、いちばんしんどいのは彼なのだから。日々、葛藤を抱えている美璃からしたら、“好きな人が生きているからいいや”なんて悠長なことは言っていられないのだ。 「逃げてもいいと思うよ」と美璃のまわりの人間たちは言う。しかし、“好き”という気持ちは厄介だ。「この人といたら不幸になる」と分かっていても、「この人がいない幸せなんていらない」と思ってしまうのだから。 「約束する、わたしはずっと空のそばにいるから」 第8話、美璃は空とともに綱渡りの日々を歩んでいく覚悟を決めた。空の記憶は、いつまた消えてしまうのか分からない。もう二度と消えないかもしれないし、朝起きたら「誰ですか?」と言われる可能性だってある。それでも、美璃は空のことが好きだから、彼の苦しみを一緒に背負うことにした。 2人の幸せは、まるでシャボン玉のようだ。美しくて繊細で、いつ弾けてしまうか分からない。もしも弾けてしまえば、すべてが跡形もなく消え去ってしまう。第8話ラストでは、空が美璃との思い出の写真を見つめてなにやら不穏な表情を浮かべていたが、また記憶が消えてしまったということなのだろうか? それとも、2人の間には愛がなくなってしまったのか。 また、タイトルが『たとえあなた“が”忘れても』ではなく、『たとえあなた“を”忘れても』になっている理由も気になるところ。これは、美璃ではなく、空目線のタイトルだということなのか。なのか。それとも、あなた(自身)を忘れても、あなた(がわたし)を忘れても、など()に入る言葉があるのか。あるいは、美璃が記憶を失ってしまう可能性も? すべての謎は、最終話で解き明かされることになりそうだ。
菜本かな