パリ五輪の暑さ対策のカギは「東京方式」、気温は「平年を上回る」とフランス気象局
東京オリンピックの暑さ対策とは
オリンピックの開催国が暑さと湿気との戦いを迫られるのは、今回が初めてではない。暑さ対策の基礎が敷かれたのは、オリンピック史上、最高気温の記録を塗り替えた2021年の東京オリンピックでのことだった。 それまで、日本のスポーツ大会で暑さ対策マニュアルが作られたことはなかったと話すのは、早稲田大学のスポーツ科学学術院准教授で東京オリンピック組織委員会のアドバイザーを務めた細川由梨氏だ。 細川氏のチームは、オリンピックのために日本で初めて暑熱に特化した緊急救護のガイドラインを導入した。特に屋外での耐久競技に注意を払い、熱疲労を起こした選手のためのアイスバス（氷風呂）や、深部体温を測定するステーションなどを設置した。最も危険度が高い長距離マラソンと競歩は、気温が30℃まで上昇するなか行われた。 細川氏らが2022年4月に学術誌「Frontiers in Sports and Active Living」に発表した論文によると、参加選手のうち3割近くが途中棄権した競技もあり、医療処置を受けた選手も少なくなかった。しかし、チームが作成したガイドラインのおかげで、入院したり後遺症が出たりした選手は一人もいなかった。「すべての症状はその場で処置を施しました。東京オリンピックでの対策は、成功でした」 そして、同じ対策がパリでも採用され、医療ボランティアがトレーニングを受けている。
選手村に急きょ空調を導入
選手たちが宿泊する施設についても、十分に体を休めることができるよう冷やされているのかという議論が噴出している。 米国のラジオ局NPRによると、選手村の建物には室温を下げるために床下に水のパイプが通り、室内は熱波のときでも外部の気温より常に6℃低くなるように作られているとされている。 パリ市長のアンヌ・イダルゴ氏は、炭素排出量を抑えるため選手村にはエアコンを設置しない方針だった。ところが、米国、オーストラリア、英国、ギリシャなどが自前のエアコンを持ち込むことを発表すると、組織委員会は2500台の仮設エアコンを注文した。 これらのエアコンは全て、電力網に負担をかけることになる。しかし2017年1月に医学誌「Temperature」に発表された論文などは、暑いなか運動をした後は涼しい環境で休むことの重要性を示している。 「炭素排出量を抑えることの必要性は理解できますが、選手たちの健康とパフォーマンスを最適化するためには、エアコンの使用が理想的だと思います」と、細川氏は言う。
