目の前のストレスや不安に立ち向かう鍵は、古代ユダヤの「世界の修理」という知恵
IntrivoのCEOは、研究により、利他的な行動をとることで精神的および身体的健康が改善され、幸福度が増し、ストレスが軽減されることが示されていると指摘しています。 私が少年だった頃に母から教わった、シンプルながらも奥深く、その後の私の人生と仕事を方向づけてくれた行動規範があります。
世界は不完全だから個人や集団の努力で修理していく
目的のある有意義な人生を送りたければ、ユダヤ教の古い教え「ティックーン・オーラーム(Tikkun Olam)」に従うのがいちばんだと、母は教えてくれました。私はこの教えを肝に銘じ、ティックーン・オーラームが持つ深い意味を理解して、この高い基準に見合った仕事ができるよう、つねに努力してきました。 ヘブライ語の成句「ティックーン・オーラーム」には、「世界の修理」というシンプルで美しい意味が込められています。そしてその土台には、世界は不完全なものなのだから、それを個人の努力、集団の努力で修理していくのが、そこに住む私たちの責任だ、という考え方があります。 不安に支配された現代にあって、世界は修理を必要としています。世界に不透明感が蔓延する中で、職場に入り込んでくる、とりわけ過酷な課題の数々に、若い世代は直面しています。そしてそれが、ストレスや不安、燃え尽きの増大を生んでいます。
行動で目の前の不安を克服する
私がスタンフォード大学に通っていたころのメンターのひとりであるAlbert Bandura教授は、「自己効力感」という概念のパイオニアでした。 自己効力感とは、「自分は、今いる状況を変えるために行動を起こすことができる」という信念です。無力感の逆が自己効力感です。 Bandura教授から私が学んだのは、不安や恐怖に打ち勝つ最良の薬は行動だ、という教えです。そして、行動に向けた非常にシンプルな指示を与えてくれるのが、ティックーン・オーラームなのです。
身近なことからもできる「世界の修理」
「ティックーン・オーラーム」というのは、「人や社会のためになることを考えて、新しいアイデアを実行する」起業家精神による行ないだと考えることができます。 だからこそ、ティックーン・オーラームのとてもよい例を示す起業家がこんなにも大勢いるのでしょう。 そのひとりが、かつてPatagonia(パタゴニア)の最高経営責任者(CEO)を務めたクリスティン・トンプキンス氏です。 大のアウトドア好きであるトンプキンス氏は、大地を保護するだけでなく、生物多様性を取り戻して、大地を「リワイルド(再野生化)」する必要性に気づきました。そして、時間とお金を投じてチリとアルゼンチンを「修理」しました。彼女のこの取り組みのおかげで、チリとアルゼンチンでは、567万ヘクタール超の公園用地が保護されることになったのです。 もちろん、何百万ドルという大金や、CR(企業責任)チームがなくても、ティックーン・オーラームは実践できます。 Buy Nothing Project(何も買わないプロジェクト。グループ内でモノを貸し借り・譲渡する取り組み)や、Little Free Library(地域に設置された小さな箱を通じて、本を貸し借りできる取り組み)などに参加して、必要とする人に自分の不用品を無料で提供することも、立派なティックーン・オーラームです。 誰かのメンターになってあげることや、ちょっとした親切な行ないも、ティックーン・オーラームです。 ユダヤの伝統では、ティックーン・オーラームの解釈は実にさまざまです。慈善活動、社会正義への取り組み、ちょっとした親切な行ない…これらはどれも、ティックーン・オーラームの一形態と考えることができます。 けれども、形こそ違えど、こうした「世界の修理」はどれも、現代社会に蔓延する不安と恐怖に立ち向かうための目的意識と意欲を私たちに与えてくれます。