関西電力、特許生かし陸上でエビ育てる 水産物安定供給へ、盛り上がる異業種参入
関西電力が、陸上施設で魚介類を育てる「陸上養殖」に参入し、静岡でエビを生産している。中核の電力供給とは一見かけ離れた事業だが、発電所の環境浄化を通じて特許を持つ細菌を活用し、エビの生産効率を高めるなど本業で得た知見を注ぎ込む。環境負荷の低減や水産物の安定供給に注目が集まる中、異業種の参入で陸上養殖は一段と盛り上がりそうだ。(共同通信=小嶋捷平) 静岡県磐田市、海岸線から1キロ近く離れた田園地帯の真ん中に「海幸(かいこう)ゆきのや」の施設はある。関電が2020年10月、陸上養殖を手がける企業と共同で設立。食用として一般的なバナメイエビの稚エビを輸入し、屋内にある幅12メートル、長さ40メートルの巨大水槽で育てる。 施設内には水槽が6レーンあり、人工の海草を置いたり、波を起こしたりして自然に近い環境を再現する。2022年6月の施設完成後、徐々に生産ペースを上げ、将来は年間約80トンを計画する。
「陸上養殖のエビはうまみが強く、雑味や臭みがない。生食可能な安全性も特長だ」と自信を見せるのは、海幸ゆきのやの日納真吾(ひのう・しんご)社長。「幸(ゆき)えび」のブランド名で、ホテルや客単価の高い飲食店を中心に出荷先を増やしてきた。セブン―イレブンの2024年用おせち料理に使用されるなど、大手チェーンにも販路を広げている。 エビの成育に最適な水質を実現するため、関電が特許を保有する「光合成細菌」の活用にも乗り出した。関電は火力発電所の取水口にたまるヘドロ浄化を目的に、広島国際学院大(現在は閉校)と共同で細菌の研究を続けてきた。この細菌が養殖エビの生産量を15%向上する効果が確認できたため、昨年12月から水槽への投与を始めた。 今後の課題は、輸入エビの4~5倍程度高い価格の抑制だ。海面養殖に比べて設備のコストがかさみ、餌となる魚粉の価格も高騰している。日納氏は「エビ以外への挑戦も検討している。食料自給率の改善といった社会課題の解決につなげたい」と強調した。
海洋資源の奪い合いや海面養殖による環境汚染が危惧される中、水産物に縁のない企業が陸上養殖に参入する例が増えている。JR西日本は鳥取県でサバ、島根県でカワハギを養殖。九州電力などは豊前発電所(福岡県豊前市)の敷地内でサーモンを育てている。