躍動する忍者と、その奥の影の先──。森山開次、美木マサオがのぞむダンス作品『新版・NINJA』再演
生と死、存在と不在──深いことをポップに届ける
ワクワク、ドキドキ観ているうちに、すっかりその世界に引き込まれてしまうのが魅力。でも実は、そのポップさにこそ、森山作品の表現の秘密が隠されている。 美木 黒衣とか後見とか、狭間にいるのはすごく好きだなあと思います。開次さんの作品はだいたい、死が出てくる。死生観というか、生と死というか、その生と死の間というか──。開次さんの中で狭間や境界が曖昧になっていることがすごく重要なんだと思うと、そういう役割を担うのはめちゃくちゃ楽しいです。 森山 存在と不在について、チープな手法で表現する、その“忍者心”を、僕は届けたい。「ドロン!」って言ったら消えたことになります──そう思ってもらえる感覚を届けられたら。 美木 そういう表現だからこそ、子どもにも違和感なく届く。子どもの方が、よくわかっていたりするんですね。 森山 死というものを超ドライポップでお届けする川瀬さんの音楽が最大の強みで、深いことをちゃんとポップに届けていく。トラウマにさせない。そこが、芸術の出し方の“塩梅”だと思うんです。ムーチョ村松くんのポップな映像も、それがあることでより深いこともドライに伝えられる。ある意味日本の伝統芸能はポップだと思いますが、超リアルにではなく、何か型に押し込めて届ける、そのポップさが重要だと思います。そこはギリギリの駆け引きで、ただ外面だけやっていては届かない。僕らの勝負どころは、1幕でわりとバカをやって、2幕では僕たちが本当に汗をかいて、身体に痛みを感じながら引き込んでいって、最後にはまたドライに、ポップに戻って──。終わり方についても、いろいろと話をしているところです。 その後も、手ずから膨大な数の小道具を作ったこと、自身の“裏方気質”について熱っぽく語る森山。が、本作でも、ダンサーとしての存在感を一気に見せつけるソロの場面が、しっかりと用意されている。 美木 開次さんのカッコ良さ……? ずっと悶々としているけど、舞台上に行ったら関係なくなるところかな(笑)。そこでちゃんと生きているというか、演出家、監督する立場としてそこまで進めてきたとしても、いざ舞台にのったら、ちゃんと爆発する。そういうところです。 森山 ダンサーとしての本能みたいなものがある。スイッチが入ったら憑依しちゃうタイプではあって、そこは楽しみたい。稽古場以外にも費やした膨大な時間とかいろんなものは、舞台にのったら捨てていいし、皆とわちゃわちゃしながら、この身体を捧げていく、というところまでもってきたい。それは祭り事の感覚に近いかもしれない。皆が準備して、祭りの当日はひたすら願い、ひたすら生きている喜びを放出する──それが、ダンスのやるべきことだと思うんです。 取材・文:加藤智子 <公演情報> 森山開次『新版・NINJA』 演出・振付・アート・ディレクション:森山開次 音楽:川瀬浩介 照明:櫛田晃代 映像:ムーチョ村松、Thomas PAYETTE 衣裳:武田久美子 音響:黒野 尚 出演: 森山開次 青木泉 浅沼圭 佐藤洋介 根岸澄宜 府川萌南(新国立劇場バレエ研修所) 美木マサオ 水島晃太郎 南帆乃佳 吉﨑裕哉 2024年6月28日(金)~6月30日(日) 会場:東京・新国立劇場 中劇場 【兵庫公演】 2024年7月6日(土) 会場:兵庫県立芸術文化センター 【新潟公演】 2024年7月14日(日) 会場:長岡市立劇場