60歳の親が転職したいと言っていますが、無理なのではと心配です……終活世代の就活実状とは その1
老齢年金が不足する場合、対策の1つに「できるだけ長く働く」ことがあります。収入の不足分を補ことはもちろん、70歳までであれば厚生年金に加入して働くと年金の上乗せができますし、給与収入だけで暮らせるなら年金の繰下げで受給額を増やすことができます。 働き続けるメリットは、心身の健康に良い影響を及ぼします。高齢者の就業率が上昇していますが、それに伴い健康寿命も延伸し、平均寿命以上に延びています(出典:内閣府 高齢者白書 第2節 高齢期の暮らしの動向より)。 高齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保は義務、70歳までの就業機会の確保は努力義務とし、企業が高齢者をする後押しをしています。また、再雇用制度や雇用延長など、同じ会社に継続的に働き続けられる制度のほか、高年齢者就業確保措置の推進も追加されてはいます。 しかし、現実問題、60歳という年齢での転職は、終活世代の就活に大きな壁となっているようです。
高年齢者の転職の実状
図表1は、令和4年1年間の年齢階級別転職入職率を、男女別で表したものです。転職入職者とは、入職前1年間に就業経験のある者をいいます。 図表1
男性のパートを除いて、男性・女性の一般と女性のパートが59歳までは転職が減少していますが、60歳から64歳ではいったん増加し、65歳以上では再び減少しています。役職定年や早期退職が、働き方を考える機会になっているのでしょうか。 また、男性は転職先がパートであるものが、一般に転職した者の約3倍となっています。ただ、すんなりと転職ができたのでしょうか。60歳前後の終活世代で、実際に職探しをした2人の例を見てみましょう。
プライドを守るため、就職が難航したAさん
Aさんは事業者でしたが、54歳の時に取引先との契約が切れたことを機に、2年ほど休養することにしました。持病があり、どこかで休みたいと思っていたのです。2年程度なら収入がなくても過ごせる資産があるし、自分にしかできない技術があるので、仕事に困らないと思っていたそうです。 しかし、3年たっても仕事の問い合わせがありません。それでも、就職するのはAさんのプライドが許さなかったそうです。これまでは温かく見守っていてくれた家族からも、どこかに就職するようにうるさく言われましたが聞く耳を持ちません。 Aさんが59歳のある日、就職を決意しなければならない出来事が起こります。クレジットカードの置き忘れを度々やったため、さすがにこのままマズイとAさんは自覚しました。 よって、Aさんは職探しを始めるのですが、新卒の際の過去の栄光(引く手あまた)が頭から離れず、希望すればすぐに就職できると思っていました。しかし、“お祈りメール”(企業からの不合格通知)が続きます。 いくら60歳定年から65歳定年になっても、70歳まで引き上げられても、「この人に来てほしい」という理由がなければ、59歳を過ぎた人を迎える企業はないに等しく、あっても給与面において採用される側が納得いかないということがあります。企業の事情によりますが、技術があって即戦力になるかどうかより、年齢の壁には勝てないのが実情です。 60歳になる間近に、Aさんは技術・経験を買ってくれる企業に就職しました。収入はこれまでより大きく落ちましたが、技術面では頼られる毎日であり、自由な時間を過ごしてきたときよりも心身ともに充実し、健康に過ごせています。