次期NSXは3モーター・ハイブリッドで自動車の歴史を塗り替える
「1輪が加速・1輪が減速」開発は難航か
ただし、開発の難航は予想される。サスペンションの最大の任務は、タイヤを路面に接地し続けさせることだが、同時に乗り心地の確保という命題もある。路面からタイヤが受けた力をそのままボディに伝えてしまうと、快適性があまりにも阻害されるので、サスペンションの各部にはゴムブッシュなどを入れてノイズや振動を遮断する。 従来の自動車は、基本的に4つのタイヤに加速か減速の力が同時にかかっていた。もちろん旋回中に多少左右の力のかかり具合にズレが生じることがあっても、1輪が加速、1輪が減速というような無茶はなかったのだ。 しかしエレクトロニクス・スタビリティ・コントロール(ESC)の登場によって駆動力をかけながら1輪だけブレーキをかける状況が現れた。これをやると、ブッシュもサスペンションもボディも必ず変形する。そうなればタイヤの向きがわずかに狂って、挙動がおかしくなるのだ。 ハイブリッドスポーツでは、そういうギャップがよりダイナミックに起きるケースが増えるはずだ。新次元のハンドリングを目指せば目指すほど、当面は乗り心地に目をつぶってブッシュ容量を落とすしか方法がなくなるだろう。しかし、ずっとそのままというわけには行かない。問題を解決しながら全体のバランスをまとめ上げていく力が求められるのだ。
自動車の未踏の歴史を行く
複数の動力源を持って、4輪に力を出し入れするという概念は、自動車の歴史に無かった新しい世界だ。未踏の新世界を発見したようなものだから地図は無い。当然検証する方法から開発をしなくてはならない。経験的にテストやチェックの項目が確立していてそのメニューに則って進めば、万遺漏なくクルマが完成するという世界でない。そこが先駆者の辛さだろう。 例えばドライバーがミスしてスピンしたケースでは、電子制御を総動員してクルマの姿勢を立て直すことが求められる。しかし例えば180°でスピンが終息してクルマの向きが後ろ向きになった場合、クルマには慣性でバックする方向の力がかかる。この力にモーターが拮抗しようとしたらモーターが耐えられない。だからどこかの時点で制御を切ってやらなくてはならない。 しかし、いつどういう条件で制御を切るかの判断は難しい。挙動を乱してスピンすると言う一連の動きの中での話だからだ。こういう「頻繁に起きる可能性は低いが、起きたらリスクが高いケース」での制御の問題なども解決しないと製品にできないのだ。実車テストで毎度同じようにスピンを再現することは難しいので、コンピュータシュミレーションで解決するのだが、ではバッテリーが空の時スピンしたらどう制御するのか、個別制御中にギャップでタイヤが浮いたらどうするのかなど、テスト項目を果てしなく組み上げなくてはならない。 次期NSXは新時代のスポーツカーの可能性を予感させる。それだけに難しさもある。その陰と陽がどんな形で結実してくるのかに大きな期待をして待とうではないか。 (池田直渡/モータージャーナル)