難役に挑む福士蒼汰の新境地──映画『湖の女たち』インタビュー
浅野忠信がロールモデル
福士は目を輝かせながら、新しく手に入れた芝居の技術を語った。収穫はそれだけではない。 「共演させていただいた浅野忠信さんがまさにロールモデル。引き算の芝居の正解だと感じました。監督の演出を体現されていて、ものすごく勉強させていただきました。浅野さんのすごさを、今までの自分だったら言語化できなかったかもしれません」と、自身の進化も実感しているようだ。芝居の深みにもう一歩踏み込んだ彼は、試行錯誤すら大いに楽しんでいる。 「『湖の女たち』で得たのは、芝居中はほかのことを考えずに究極的に主観でいる感覚です。これを応用してみようとリアリティ色の強いドラマ『アイのない恋人たち』でトライしてみました。でも、自分の感覚として現場で手ごたえがあっても、テレビで観ると、薄いと思えてしまう瞬間もあって。『湖の女たち』では僕が何かアクションを起こしていなくても、そのシーンを観たときに『圭介って怖いな』と思えるのに、テレビドラマではそうはいかない。ただ『何もしていない人』に見えてしまうわけです。それはなぜなのか──プラットフォームや作品性によって見え方はまるで変わってくることに改めて気づいて、“芝居に正解はない”ということを痛感しました」 ちなみに『湖の女たち』では、現場での“居方”にも発見があったという。 「これまではキャラクターや関係性にかかわらず、共演者と仲良くして気兼ねなく話し合える間柄になれるように、現場で振る舞ってきました。でも今回はあえて松本さんと距離を取って、現場でも一切言葉を交わさなかった。圭介と佳代の微妙な距離や緊張感に繋がればという思いでしたが、松本さんは『福士くんって怖い人なんだ』と感じていたそうで、それは圭介と佳代でいられた証かなと思っています」 今回の難役に挑むに当たって、役者個人の感覚を超えて、「観る側がどう感じるか」まで掌握しようとしていたと明かす福士。その感覚は監督を務めた「アクターズ・ショート・フィルム4」でも有効だったのでは? と問うと、彼は大きくうなずいた。 「僕は元々、物事を客観視するタイプなので、現場全体を見渡して指示をしながら頭の片隅で別のことを考える監督業が楽しくて仕方がありませんでした。俳優の立場だと、役と僕自身はまったく別人だと言えましたが、脚本も書いている監督という立場になると、そうはいきません。僕個人のカラーが浮き彫りになるわけで、どう受け取られるのか、客観的な視点が求められます。緊張もしましたが、新鮮で貴重な経験でした。自分の演出によって演者の芝居や作品の印象が変わっていく様子はなんとも言えない達成感があって。長編にも挑戦してみたいです」 新たな目標を掲げた福士蒼汰は、表現者としての可能性を追求して、しなやかに突き進む。