カオス過ぎる都知事選ポスターの皮肉な副次効果、規制議論の一方で選挙への関心を高める人々
● 「選挙ポスター廃止でいい」は思うツボ? モラルハザードにチャレンジする人々 今回、候補者らが警告を受けてポスターを剥がしたのは、世論からの批判が強かったことも理由の一つかもしれない。 インターネット上では以前から政治的妥当性(ポリティカル・コレクトネス)への冷笑ムードが強く、今回もいわゆる「泡沫候補」の名前がトレンドにたびたび上がるなど、主要候補ばかり取り上げるマスコミへの反感も強い。 そのようなノリがある中で、このようなモラルハザード的行為も、一種の挑戦として許されるという目論見が候補者らにはあったのかもしれない。しかしネット上でも、これらの行為への賛同はあまり集まらなかった。 候補者の顔とスローガンが並ぶ決まりきった選挙ポスターだけでなく、意表をつくようなデザインを見たいと思う人もいるだろう。しかし、今回のようなポスターの使い方がされてしまうのであれば、規制は待ったなしだろう。すでに複数の識者が、今後はなんらかのルール作りが行われるだろうと予想している。 「使用する人物の顔写真は候補者のものに限る」「どの候補者のポスターなのかわかるようにすること」「AIは不可」などの最低限のルールが定められるのかもしれないが、ルールを作ればまた、それを逆手に取るようなポスターも作成されるのかもしれない。 インターネットの時代となり、選挙掲示板は不要なのではないかという声もネット上では見られる。立花党首は記者会見で、今回の目的が多額の税金を使うことになる選挙版への批判であるという趣旨の発言もしており、「『町のあちこちに(選挙ポスターを)掲示するのは違うでしょう』ということを訴えるポスター」の掲示も検討しているという。
実際、今回の掲示板を見て「こんなことに税金が使われるのはうんざりだ」と感じた人は多いであろう。しかし、インターネットやSNSで情報収集をする層が増加しているとはいえ、選挙公報や掲示板に馴染みのある人もいることを考えると、すぐに廃止する方向へ議論が傾く可能性は低いように思われる。 ● 「あのポスター見た?」 選挙の話のきっかけになる皮肉 今回のような選挙ポスターの使い方は個人的にはまったく支持しない。ただ、悲しいかな、この件で初めて選挙について友人や家族と会話を交わしたという話を何度か耳にした。 たとえば40代の友人は成人したばかりの子どもから「選挙ポスター見た?」と聞かれたそうである。また、ある20代は、ニュースでも報道された選挙ポスター掲示板の様子が親からLINEで送られてきたという。 「あのポスターを見たか」「こういうポスターをどう思うか」という会話がそこかしこで行われたことは想像に難くない。 投票率が低く、選挙への関心が低いと言われる国民性であり、政治の話はとかく煙たがられがちである。投票へ行くのは支持政党がある人と思われがちな社会の中で、こんなことをきっかけに「選挙の話」が交わされる機会が増えたのであれば、それは喜ぶべきことなのか、憐れむべきなのか……。 実際に投票率が上がるかどうかはわからないが、主要候補に関してさまざまな報道が出ていることもあり、今回の都知事選は例年に増して注目度が高い雰囲気がある。そして、もしも仮に投票率が上がったとしたら、ほんのわずかかもしれないが、このポスター騒動が関係しているかもしれない。
鎌田和歌