コンゲームの“ワクワク”が詰まった、 内野聖陽×岡田将生『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』──【おとなの映画ガイド】
『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督が長く温めてきた自信作、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』が11月22日(金) にいよいよ全国公開される。気弱で真面目な税務署員(内野聖陽)と強気で頭脳明晰な詐欺師(岡田将生)、この相容れないふたりが、意外な事情でタッグを組み、大企業の巨悪社長に罠をしかけるさまは、圧巻にして痛快! コンゲームの旨味が凝縮された展開にワクワクさせてくれる映画です。 【全ての画像】『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』の予告編+場面写真(8枚)
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
詐欺や騙し合いをテーマにした犯罪サスペンス、いわゆるコンゲーム映画のおもしろいところは、「嘘」を「本当」だとターゲットに思わせるためのトリッキーな仕掛けとその巧妙さ。 長澤まさみ主演の『コンフィデンスマンJP』や、この夏話題になったNetflix『地面師たち』もそうだけれど、変装や演技だけでなく、犯罪技術の専門家たちが知識やスキルを活かして、とんでもない偽造をほどこしたりする。"インポッシブル"な悪事を"ポッシブブル"にしてしまうある種の爽快感が醍醐味なのだ。 そのあたり、この映画もコンゲームの王道をいっている。 主人公は、マジメに税務署づとめをしてきた、どちらかというと“事なかれ主義”の熊沢(内野聖陽)。彼はある日、正義感の人一倍つよい部下・望月(川栄李奈)が巨大企業の社長・橘(小澤征悦)の脱税疑惑をあばくため暴走し始めたのを止めようとして、理不尽なトラブルに巻き込まれ、堪忍ならない事実を知ってしまう。 さらに追い打ちをかけるような出来事が。家族にせがまれ、車を買い替えようとして、巧妙な詐欺に引っ掛かってしまったのだ。親友の刑事(皆川猿時)に助けられて、犯人・氷室(岡田将生)を捜しだすが、その氷室が、大胆な提案をしてきた──。「橘社長が脱税した10億円を、本人から徴収してあげる。だから見逃して」というなんとも悪魔的な誘い。方法は土地取引詐欺、いわゆる“地面師”をやるという……。かくして、税務署員とイケメン天才詐欺師+クセ強の仲間たちの大がかりなミッションが始まる。ここからがスリリングで面白い。 詐欺チームとして集められたのは、どんなキャラにも完璧に成りきる・白石(森川葵)、メカニックを知り尽くした偽造の達人・丸(上川周作)、当たり屋の村井(後藤剛範)、これに、橘に恨みを持つ闇金業者の五十嵐(真矢ミキ)とそのクレイジーな娘・薫(鈴木聖奈)。それぞれに見せ場があるが、“ワイルド・スピード”森川葵の七変化ぶり、連続テレビ小説『虎に翼』にも出演した大人計画・上川周作のとぼけた職人技が、なかなか刺激的。 犯行グループ以外のキャストも絶妙。ターゲットとなる橘役・小澤征悦の悪人ぶり。税務署長役・吹越満のうさんくささ。熊沢の親友で刑事の皆川猿時や神野三鈴といった顔ぶれ、みな、うまい。 原作は、あの “マブリー”ことマ・ドンソクが税務署員に扮した韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師 38師機動隊』。上田慎一郎監督は、『カメラを止めるな!』(2017) が公開される前に伊藤主税プロデューサーから勧められて観て、「滅茶苦茶面白かった」ととびついたそうだ。おそらくその時「自分ならさらに面白くできる」と考えたにちがいない。プロデューサーの狙いはドンピシャ。監督と、テレビ『相棒』シリーズも手がけた脚本家・岩下悠子が、プロットから作り変えた。脚本執筆に1~2年、コロナ禍による趨勢の変化にもぶち当たり、なんと14稿まで改稿し、完成させたそうだ。 “カメ止め”のあっと驚くどんでん返しや、あえてのチープな作りなど、上田慎一郎監督は奇抜なアイデアがウリだと見ていたけれど、今作は正統派で仕上げられたウェルメードなサスペンス。適度にツッコミどころもあり、そのあたりは、観終わってああじゃこうじゃいう愉しみも用意されて?いるのかな。 サブタイトルの「公務員と7人の詐欺師」は、西部を舞台にした詐欺師もの『テキサスの五人の仲間』をほうふつとさせるとか、『オーシャンズ11』みたいなところもあるな……とか、映画好きの心を駆り立て、さまざまな記憶を思い起こさせてくれる作品です。 文=坂口英明(ぴあ編集部) 【ぴあ水先案内から】 渡辺祥子さん(映画評論家) 「…………詐欺と友情の物語⁉ の誕生だ。」 中川右介さん(作家、編集者) 「……こういう映画の常として、観客も作り手に騙されるので、ご用心……」