映像切り抜き、印象操作 バイデン氏を悩ます「チープフェイク」
11月の米大統領選で再選を目指す民主党のジョー・バイデン大統領(81)を巡り、保守派のメディアやSNS(ネット交流サービス)ユーザーが「主要7カ国首脳会議(G7サミット)のイベントで徘徊(はいかい)した」「存在しない椅子に座ろうとした」と中傷する映像を相次いで流している。史上最高齢の大統領であるバイデン氏の「認知能力の低下」に対する不安をあおる狙いがあるが、実際の映像を切り抜くことで偏った印象を与えており、ホワイトハウスは「チープフェイク(安っぽい偽物)だ」と反発している。 【図表】歴代の米大統領、一番人気なのは バイデン氏は今月、国賓として訪問したフランスでの式典で、壇上に整列した後に左後方を向き、用意された椅子に座るかどうか数秒間迷う場面があった。保守派はSNSを通じて、椅子が映っていない部分の映像を切り取って流し、「存在しない椅子に座ろうとした」と中傷した。米仏の大統領夫妻が壇上に並ぶ中、バイデン氏だけがこうした行動をとり、不自然な印象を与えたことが利用された。 イタリアで6月中旬に開かれたG7サミットでは、首脳がそろってスカイダイビングを見物する行事で、バイデン氏だけが別の方向にゆっくり歩いていく様子が映像に捉えられた。ホスト役のメローニ伊首相が気づき、追いかけて呼び戻したが、保守系メディアは「迷子のバイデン」などと面白がって報じた。実際はバイデン氏は別方向にいたスカイダイバーらにあいさつしただけだったが、あたかもバイデン氏が「徘徊」したように編集された。 こうした報道や情報拡散について、ホワイトハウスのジャンピエール報道官は17日の記者会見で「大統領への信頼を落とすための悪意に基づくもので、チープフェイクや誤情報と呼ばれるものだ」と批判した。 ただ、高齢のバイデン氏の動作が緩慢になっているのは否定できない。10日にホワイトハウスで開かれたコンサートでは、ハリス副大統領ら他の参加者が音楽に乗せて体を揺らしたり、手をたたいたりする中、バイデン氏だけが20秒以上も微笑を浮かべたまま棒立ちになる場面があった。G7サミットからの帰国直後に臨んだ資金集めパーティーでも、オバマ元大統領ら他の出席者が聴衆の拍手に応える中、一人だけ棒立ちになり、オバマ氏に促されて移動する場面があった。保守派は「バイデン氏がフリーズした(固まった)」と皮肉っている。 バイデン氏は自身の高齢不安について「仕事ぶりを見てほしい」と訴えている。米メディアによると、転倒しにくい靴を履き、歩く際に側近らが周りを固めるなど、緩慢さが目立たないよう対策もしている。米政府は健康に配慮した日程を組んでいるが、G7サミットの夕食会を欠席したり、閉幕を待たずに帰国したりするなど、公務に影響が出ている面もある。【ワシントン秋山信一】