『スローン・アンド・リバティ』インタビュー。“世界基準を満たしていない”と感じ、早々にMMORPGの伝統を撤廃。グローバル人気を支える独自の楽しさ追求
2024年10月からNCSOFTとAmazon Gamesは基本プレイ無料の新作MMORPG『スローン・アンド・リバティ』を提供している。対応プラットフォームはプレイステーション5(PS5)、Xbox Series X|S、PC(Steam)。 【記事の画像(12枚)を見る】 ターゲッティング方式でスキルを選択していくバトルシステムや、昨今のタイトルでは多く採用されているオート機能をほぼ排している点など、MMORPGとしては黎明期の“懐かしさ”を感じさせる本作。同時に昨今のプレイヤーのニーズにも応える遊びやすさやおもしろさも盛り込み、ワールドワイドな人気を博している。 ふたつの武器を組み合わせるキャラクタービルドや豊富なコンテンツなど、古きよきMMORPGという評価に留まらない最新のタイトルに仕上がっている。 本作はなぜこのスタイルを目指したのか。ほかのタイトルとはどうやって差別化を果たしたのか。なぜいま、世界中の多くのMMORPGプレイヤーの心をつかんでいるのか。開発チーム、ならびに運営チームのキーパーソンに、その理由や経緯について伺ってみた。 チェ・ムンヨン: NCSOFT『スローン・アンド・リバティ』部門責任者。文中ではチェ。 ダニエル・ラフエンテ: Amazon Gamesグローバリゼーションデザインマネージャー。文中ではラフエンテ。 幾度ものテストを経て世界で戦えるMMORPGへ ――まず確認としまして、本作『スローン・アンド・リバティ』のプロジェクトは開発中だったMMORPG『リネージュエターナル』から『スローン・アンド・リバティ』へと変遷したものと推測しているのですが。: チェ: 既存の『リネージュエターナル』と 『スローン・アンド・リバティ』は、まったく異なるプロジェクトです。当時の開発チームのメンバーがそのまま合流したため、外部からはそう思われているのかもしれませんね。 ――『リネージュエターナル』の延長線上のような関係はまったくないということでしょうか。 チェ: 『スローン・アンド・リバティ』は2017年から、グローバル市場で楽しめる次世代MMORPGを目指して新たに開発を始めました。開発エンジンもギルドウォーズエンジンからアンリアルエンジンに変更しました。 私たちが持つ技術力をもとに、いままでにない没入感を体験できる新しいMMORPGを作ろうと、このプロジェクトは始動しました。『リネージュエターナル』はCBTの後に終了し、新たに“次世代MMORPG”を目指して開発を始めたものこそが『スローン・アンド・リバティ』なのです。 ――新規タイトルとして開発を始めたところに、韓国ではRPGの代名詞となっている『リネージュ』の系譜から脱却しようという意図はあったのでしょうか。 チェ: 私たちは『リネージュ』とはまったく違う、差別化された新しいIPを作り出すことを目指しました。世界観を見ていただければわかると思いますが、ロエンとカランシアというふたりの女性を中心にした広大なオリジナルストーリーを描いています。ただし、MMORPGというフォーマットのため、成長や戦闘などに似通った部分はあるかもしれませんね。 現在実装されているメインストーリーコンテンツ“冒険チャプター”は10幕まで。現段階でも、壮大かつシネマティックなストーリーが楽しめる。 ――過去のベータテストではユーザーから批判的な意見が目立ったように思いますが、その後の評価はおおむね肯定的な意見に変わってきています。この変化の要因は何だと思いますか?: チェ: 当初の 『スローン・アンド・リバティ』は、2024年のグローバルMMORPGに期待される“世界で戦える基準”を満たしていない点があると感じていました。初期の段階では、韓国市場で慣れ親しまれていた一部の要素が、本作を待ち望んでいたグローバルユーザーの期待とは合わない部分があったのでしょう。 しかし、ベータテストを通じてこれらの問題を解決し、とくに“戦闘のアクション性”と“独自性の楽しさ”を強化することに重点を置いたのです。これらの改善がポジティブに評価されたようです。 ――具体的にどのような経緯を経てフィードバックが行なわれたのか、伺えますか。 チェ: ベータテストで得たユーザーフィードバックをもとにゲームを改善することは非常に重要なプロセスでした。2023年に実施した韓国のFGT(Focus Group Test)およびCBT(Closed Beta Test)では、初期の戦闘スタイル、UI、自動戦闘システムがユーザーの求めていたものではないというフィードバックを受けました。これを受けて、私たちはこれらの要素を大幅に削除し、ユーザーフィードバックに基づいた改善作業を進めました。 また、今年2024年のグローバルCBTとオープンベータテストを通じても、継続的にユーザーフィードバックを収集し、さらなる改善に努めてきました。その結果『スローン・アンド・リバティ』は徐々に進化していったのです。 本作の戦闘テンポは既存のターゲッティング方式のMMORPGの中でもかなり速い部類。それでいて操作に複雑な部分はなく、かなりわかりやすくまとまっている。 ――とくにフィードバックに力を注いだのは、どういった部分でしたか。: チェ: 頻繁に指摘されていた戦闘メカニズムの改善に多くの労力を注ぎ、それによって本作ならではの独自のアクションと楽しさをさらに強化しました。これらの変化はポジティブに受け入れられているようです。今後も継続的な改善を行い、ゲームをさらに進化させることに集中していく予定です。 ――さまざまな国や背景を持つ人たちが同時に楽しめるグローバルタイトルとして、世界中のプレイヤーのためのゲーム作りを進めるうえで必要な要素や、注力すべきポイントについてどうお考えですか。 チェ: 私たちはお互いに競争するのではなく、協力するPvEコンテンツが重要だと考えています。また、戦闘以外の釣りや料理などといった生活系コンテンツは必ず必要だと考えます。 グローバルサービスを準備する中で、こうした部分に注力しましたし、今後も様々な要素を対象に、ユーザーが協力して楽しめるコンテンツの開発に力を入れていくつもりです。 全プレイヤー層を楽しませるためのシステム ――続いて、ゲーム内容についてより詳細に伺っていきます。世界規模ではマルチプレイよりもソロプレイを求めるゲームプレイヤーが増えつつあるいま、ギルドを中心にした大人数でプレイする設計にしたのはなぜでしょうか。: チェ: シングルプレイとマルチプレイがもたらす楽しさはそれぞれ異なると思います。私たちが 『スローン・アンド・リバティ』で目指すのは、複数のプレイヤーが集まって、それぞれの物語や経験を作り、楽しむことができるゲームを作ることです。また、このようなゲームプレイに対する需要と市場はまだまだあると信じています。 ――戦闘がターゲット形式ということで、昨今はこの形式ではオートバトルを採用するタイトルが多いかと思います。本作にオート機能を導入しなかったのには、理由があるのでしょうか。 チェ: プレイヤーがPCやコンソールのプラットフォームで自分自身が直接ゲームをコントロールして、実践的な戦略を体験することで 『スローン・アンド・リバティ』の楽しみ方を生み出すことを、私たちは望んでいます。 過去のCBTでオートバトルを試みたことはありますが、好意的な評価は得られませんでした。私たちはよりアクション性が強調された戦闘を目指しています。 “プレイヤーそれぞれが物語や経験を作る”というおもしろさには、MMORPG好きのプレイヤーは大いに共感できるかと思う。パーティーやギルドを通したプレイヤー同士の関わりが本作を形作っていく。 ――一般的なクラスチェンジ方式ではなく、武器をふたつ持つシステムを導入した経緯を教えてください。また、それがゲーム設計においてどのようなメリットにつながっているとお考えですか。: チェ: 『スローン・アンド・リバティ』にはMMORPGでは伝統的となっている“クラス”システムがありません。選んだ武器によって異なるゲームプレイが可能になります。ふたつの武器をどのように組み合わせるかによって、多様な戦闘スタイルが完成して、異なるプレイスタイルを楽しめるのです。 開発チームにとっては、組み合わせごとのバランスを取る作業はたいへんなことですが、それによって、プレイヤー皆さんの自由度、選択肢が増え、より豊かで魅力的な体験ができると信じています。 全8種類の武器はそれぞれ異なる性質やスキルを有しており、組み合わせると意外なシナジーが発見できることも。スキルの性能を変える“スキル特化”も含めれば、その可能性は膨大。 ――本作はほかのMMORPGと比べてストーリー進行や育成などへの導線が少なく、豊富なコンテンツを好きなところから遊べます。その反面、MMORPG初心者にとってのわかりにくさになっている側面もあるかと思います。このフリースタイルの構造は、意図して用意されたものなのでしょうか。: チェ: 初心者でも難しくなく、誰でも楽しめるMMORPGを目指しています。成長の過程では、ガイドとコーデックスを通じて、プレイヤーは最大レベルまで達することができるはずです。その中でPvE、PvP、生活コンテンツ、シングル、パーティーコンテンツを選ぶことは、さまざまな楽しみを提供するためのものであり、難しさではないと考えています。 ――ゲーム内での経済の循環については、今後どういった方針で発展させていく予定でしょうか。 チェ: 本作にはふたつの通貨“ソラント”と“ルセント”があり、これを通じて経済が循環する構造を作り出しています。今後もこの方向性を維持する計画です。 ワールドワイドであるための調整と展望 ――続いて運営面について。ボスの出現時間や各エリアのイベントスケジュールのコアタイムなど、どのような基準で設定しているのでしょうか。: ラフエンテ: ワールドボスやイベントのスケジュールは、世界各地域のプレイヤーの活動ピークの時間帯に合わせて慎重に構成されています。私たちは、できるだけ多くのプレイヤーがこれらの魅力的なアクティビティにアクセスできるようにしたいと考えています。とくに占領戦のような競争的なコンテンツでは非常に重要な部分で、プレイヤーの参加機会を最大化できる時間帯にもとづいて構成しました。 しかし、最近のプレイヤーアンケートデータにもとづき、より良質なサービスをコミュニティに提供するためには、占領戦に関する時間帯の調整が必要であることが確認されました。今後このスケジュール変更については積極的に実施していく予定です。 たとえば“攻城戦”は、現段階(2024年12月)だと日本時間で日曜16時から開始。世界各国で同時にスタートすると考えると、時間調整がかなり悩ましいことは想像に難くない。 ――PvPについて日本からは否定的な意見も多いかと思います。各国からはどのような意見が寄せられていますか。: ラフエンテ: 私たちの分析によると、PvPとPvEのコンテンツに対する好みは、厳密な地域別ではなく、プレイヤー個人によって大きく異なる傾向があると思います。これは日本だけでなく、私たちがサービスを提供しているすべての地域で共通的に見られます。 ――PvPについては今後どのような調整や、コンテンツの追加をお考えでしょうか。 ラフエンテ: とくにPvP中心のプレイヤーの皆さんからは、競争コンテンツの深さと品質について非常にポジティブなフィードバックをいただいていることを誇りに思っています。しかし、すべてのプレイヤーがこのプレイスタイルを好むわけではないという点も認識しています。 私たちの使命は、『スローン・アンド・リバティ』にプレイヤーがどのように関心を持つかを知り、ゲームに参加するための“さまざまな選択肢”を提供することです。私たちは、PvPシステムにせよ、PvEコンテンツにせよ、また生活系コンテンツにせよ、ゲームすべての側面の拡大に全力を注いでいます。目標は、すべてのタイプのプレイヤーが自分の好みに合った新鮮で魅力的な体験を見つけ続けられるようにすることです。 ――季節イベントのスケジュールとしては、ハロウィンイベントのスペシャルダンジョンのクオリティの高さが印象的でした。今後の季節限定ダンジョンや、そのほかのイベントの予定があれば、可能な範囲で教えてください。 ラフエンテ: 私たちのハロウィン特別ダンジョンがこれほどまでにポジティブな反応を得られたことを、とてもうれしく思っています。開発チームがこの特別なシーズンコンテンツを作るために非常に多くの努力を尽くしたので、プレイヤーの皆さんが楽しんでくださっていた姿を見ることができて、さらにやりがいを感じています。 ハロウィンダンジョンは装飾が凝っていただけでなく、独自の敵やギミックなども満載。多くのプレイヤーを楽しませてくれた。 ラフエンテ: 今後についてはまだ具体的な内容を公開することはできませんが、特別なシーズンイベントやコンテンツを、年間を通して提供していく予定であることだけはお伝えできます。このような期間限定の活動は、本作の“ソリシウム”世界を新鮮でダイナミックに保つために非常に重要な役割を果たしていると考えています。 ――最後に、その今後のために準備しているというゲーム全体のアップデートについて、直近のアップデートのものも含めて方針などを教えていただけますか。 ラフエンテ: 11月21日にリリースされた新しい“★2ダンジョン”については、この新しい挑戦的な戦闘に非常に期待しており、プレイヤーの皆さんに新鮮なPvE体験をきっと気に入っていただけると確信しています。 また、12月5日に実装された新武器“スピア”は特有のクラウドコントロール能力を持っており、使いかたをマスターすれば敵の防御スキルを無効化し、使用するほど強力になる連続攻撃で敵を圧倒することが可能となります。 スピアは一定時間防御アクションを封じるスキルや、ダメージディーラーとして優れたスキルの数々を引っ提げて登場。武器の組み合わせの可能性がさらに広がった。 ラフエンテ: これ以上の直近の展望については、私たちが開発中の大規模な計画があり、これを公開するのを非常に楽しみにしています。私たちは 『スローン・アンド・リバティ』の体験を継続的に進化させ、豊かにするコンテンツを提供し続けることをプレイヤーの皆さんにお約束します。この旅は、いままさに始まったばかりです。