マクロンの賭けで大混乱のフランス...3極化した下院、増長する極右、改憲で「第6共和政」に?
下院選決選投票の結果により露呈した分断。単独過半数の政党がない3極構造で極右は次の大統領選を狙う。フランス政治はどこに向かうのか?
その夜、パリ中心部のレピュブリック広場に集まった市民は歓喜の声を上げた。 7月7日に行われたフランス下院選の決選投票では、1週間前の第1回投票の結果を受けて、極右勢力が単独過半数を獲得するのではないかと予想されていた。だが実際には3位に終わり、極右政権誕生が阻止されたため、国内外に安堵のムードが広がった。 【画像を見る】パリ五輪のロゴとマッチングアプリTinderが激似と話題に しかし、この約1カ月間の大混乱の結果、今やフランス政治は劇的に変化している。 エマニュエル・マクロン大統領が下院解散・総選挙を突然発表したのは6月9日。同日に実施された欧州議会選挙で、自らの与党勢力がマリーヌ・ルペン率いる極右政党・国民連合(旧国民戦線)に大敗したため、政治的展望の明確化を求めるとの理由だった。 このマクロンの決断で、下院は様変わりした。明確になったのはフランス政治の3極構造化だ。新たな下院は、主に3つの政治ブロックで構成される。決選投票で最多182議席を獲得した左派連合の新人民戦線、中道の与党連合、国民連合中心の極右勢力だ。 マクロンの賭けは、明らかに裏目に出た。与党連合は改選前、下院定数577議席の半数近くを占めていた。 決選投票に向けて候補を一本化する選挙協力で、新人民戦線からは候補者129人が選挙戦から離脱。与党連合側の撤退者は81人で、より有利な立場だったにもかかわらず、第2勢力に転落した(獲得議席数は168議席)。 国民連合は143議席(共闘勢力の獲得議席を含む)にとどまったが、メディアの注目のおかげで、かつてない存在感を手にしている。 左派は勝者とはいえ、与党連合が展開した「悪魔化」キャンペーンの打撃で、イメージは最悪。新人民戦線は次期首相ポストの獲得を狙うが、厳しい視線にさらされるのは必至だ。 一方、中道右派の共和党は国民連合への態度をめぐって分裂し、有権者の信頼を急速に失っている。新人民戦線を「極左」と非難してきた与党連合も、今回の選挙協力で分裂状態に陥っている。 新人民戦線の一角である緑の党のマリーヌ・トンデリエ党首が指摘したように、今や下院選は「第3ラウンド」に突入している。交渉や取引、連立政権のシナリオが交錯する慌ただしい局面だ。 多党化した議会構成は多くの欧州民主主義諸国では珍しくないが、フランスの事情は異なる。この国では2017年まで、共和党(またはその前身政党)と中道左派の社会党が、2大政党として政治を担い続けてきた。 つまり、フランスには連立政権の伝統が存在しない。従って、当然ながら現状は混乱ムードだ。どの党が、どの程度の規模の多数派として、どのように国を治めるのか──。 この第3ラウンドは今夏いっぱい続く見込みだ。フランス政治はどこへ向かうのだろう? 新たな下院はかつてない影響力を持つはずだ。半大統領制のフランスでは近年、大統領が任命する首相の権限が目に見えて縮小している。 だが下院は完全に分断化し、いずれの勢力も多数派として動けない。3つのブロックが根深く対立し、連立経験が不在の状況では特にそうだ。そのため、政治の不安定は長期化するとみる向きが多い。 新政権がどんな形になっても、法案可決は困難になり、不信任投票が頻発する可能性がある。不安定化が加速し、議会運営は行き詰まるだろう。そうなれば、マクロンは1年後、新たな解散・総選挙に踏み切るかもしれない(大統領が下院解散権を行使できるのは1年間に1回限り)。