「がん検査キット」で何がわかるのか? 自宅でできる遺伝子とマイクロRNAのがん検査を試してみた
3月にお笑いコンビ・オズワルドの畠中悠が腎臓がんで片方の腎臓を全摘出したことが話題となった。幸い早期に発見できたそうで、すでに仕事に復帰しているが、発見したきっかけは友人である空気階段・鈴木もぐらの体調を心配して、たまたま検査をうけたことだったという。 【画像】がん検査キットで判定した本誌記者の検査結果‼ がんは「見つかったときには手遅れだった」という話はよく耳にする。だが、定期的にがん検診に行ったほうがいいのは分かっていても、行けないという人は多いのではないだろうか。がんの種類ごとに検査を申し込まなければならず、検査の日程や受ける場所が違うこともしばしばで、とにかく面倒くさいというイメージしかないのだ。 そんなこともあってか、近年では自宅でできる検査キットも増えているようだ。’22年より提供が開始された『マイシグナル®︎』という検査パッケージを本誌記者が試してみた。『マイシグナル®︎』はシリーズ展開されており、尿中マイクロRNAを用いた検査で現在がんになっているかのリスクを検査する『マイシグナル・スキャン』(6万9300円)と、自分はどんながんになりやすいのかを遺伝子検査で判定する『マイシグナル・ナビ』(1万9800円)の2種類があるらしい。とりあえず2つとも申し込むことに。 送られてきたのは2つの小さな箱だった。『スキャン』のほうには尿検査用のキット、『ナビ』のほうにはだ液を採取するためのキットと、それぞれ郵送するための梱包材と検査方法の簡単な説明書が入っている。 説明書に書いてあるQRコードから専用のサイトに登録してweb申込票に記入。質問の内容は年齢、身長、体重や飲酒、喫煙などの生活習慣、病歴、近親者のがん歴など。検査も非常に簡単で『スキャン』は付属の容器に尿を採取し、『ナビ』も同様に付属のキットのスポンジで採取しただ液を郵送するだけ。登録するところから始めても30分ぐらいで終わってしまった。 結果が届いたのは『スキャン』が約2週間後、『ナビ』が約1ヵ月後だった。『マイシグナル®︎シリーズ』を開発したCraif株式会社の広報担当・松本尚樹氏に検査の内容と結果の見方について解説してもらった(以下、発言は松本氏)。 「弊社ではがんの早期発見を目標にがんリスク検査『マイシグナル・スキャン』の事業を’22年2月からスタートしました。そこからさらにラインナップを拡張して、がんに特化した遺伝子検査『マイシグナル・ナビ』を加えた『がん対策セット』として昨年11月からリリースしています。 がんは2つの要因から発症すると言われており、1つは両親から受け継いだ遺伝子によって決まる『遺伝要因』。もう1つは日々の生活習慣や周囲の環境により遺伝子が傷つき、がんリスクが上昇する『環境要因』です。この両面からアプローチすることで、包括的ながん対策を実現することができます」 個人で購入する以外にも現在提携している全国600以上の医療機関で検査してもらうことも可能だという。『マイシグナル®︎シリーズ』の特徴としては、7種のがん種ごとに検査結果が出ること、検診が確立していない卵巣がん、すい臓がんにも対応している点だという。特に、すい臓がんは5年生存率が全がん種のなかで最も低い8%台の危険ながんである。 では、まず今現在のがんリスクを早期発見できるという『スキャン』について説明していただこう。『スキャン』は尿に含まれるマイクロRNAを調べるというのだが、どういう仕組みなのだろうか。 「がんの細胞は正常な細胞にシグナルを送って、がん細胞に変化させるということをしています。そのときのシグナルとなるのがこのマイクロRNAです。例えば胃がんのがん細胞は特定のマイクロRNAを数十種類出しているというふうに、がん種ごとに違う組み合わせのマイクロRNAでメッセージを送っています。このマイクロRNAを見て、がん細胞があるかどうかのリスクを判定する仕組みです。 がん患者さんの尿から、その特徴的なパターンをAIに学習させたものと検査を受けていただく方のパターンがどれぐらい近いかをAIがはじき出して結果を出しています。 マイクロRNAは100万分の1ミリの非常に小さな物質。とても壊れやすく、その安定的な検査には抽出、測定、解析のすべてに高度な技術が必要です。 弊社では全国約30の大学病院・がん研究センターとの長年の共同研究を実施。研究の結果、AI解析技術などの数々の特許技術を取得し、これらの技術を使って1万件以上の尿ライブラリーからデータを取得し、解析することで、がんリスクを種類別にステージ1から検知することが可能となりました」 検査結果は20ページほどの冊子になっている。中を開くと最初のページにトータルの結果のまとめがあり、それ以降は肺がん、胃がん、大腸がん、食道がん、すい臓がんの5種類のがんごとに細かく結果が書かれている。女性の場合はさらに卵巣がん、乳がんが加わって7種類になるそうだ。 各がん種ごとのパートの最初には「総合評価」が低中高の3段階で書かれている。評価はマイクロRNAのパターン評価である「マイクロRNAがんリスク」とweb申込票の回答から導き出された「パーソナルがんリスク」を総合して決められているという。 例えば僕の場合、肺がんの「マイクロRNAがんリスクスコア」は37、「パーソナルがんリスクスコア」は47。これを総合すると、現在肺がんにかかっているリスクは「低」という結果だった。総合評価「低」で現在何の自覚症状もない場合は追加検査の必要はないので、とりあえず現時点ではがんである可能性は低いようだ。その他のがんのリスクも結果は「低」だった。 リスクが高いという結果になった場合は、がん種ごとの結果ページの最後に追加で受けるべき検査と、QRコードを読み取ることでその検査が受けられる医療機関も調べることができるようになっている。これは、がん種ごとに結果がわかる『マイシグナル®︎』ならではの点だという。 「がん種ごとに追加検査の種類が変わってくるんです。例えば肺がんだと CT検査、胃がんだと内視鏡検査というようにがんによってその後の検査が違います」 他の検査キットにはがん種を特定できないものもあるため、がんの可能性がある場合、一通りの検査をしなければならない点がネックだと聞いたことがある。がん種が特定できる点はかなりポイントが高そうだ。次に『マイシグナル・ナビ』の結果について聞いてみた。 「他の遺伝子検査と比べて、がんに特化した遺伝子検査はあまりないんです。さらに 日本人に合わせたデータで作っているところと次世代型の最新機器で検査しているところが『マイシグナル・ナビ』の特徴になります。結果は、現在がんにかかっているかどうかではなく、そもそも生まれ持った体質的にどの部位にがんが生じやすいかを示します」 こちらも結果は20ページほどの冊子で、『スキャン』と基本的な構成は同じだ。ただ、がん種ごとのリスクは遺伝子検査の結果で判定される。ちなみに僕の結果は肺がんと大腸がんは「中」リスク、胃がん、食道がん、すい臓がんは「低」リスクという結果だった。これはどう受け止めればよいのだろうか。 「肺がんと大腸がんになるリスクが日本人の平均よりも少し高いですよ、というところです。多くのがんは生活習慣病と言われていて、国立がん研究センターのサイトでは、お酒、タバコ、運動などの日常生活習慣に気をつけることで、リスクが約40パーセント 低減できると言われています。意識的に自分のがんのリスクを低減させるために、日々の生活に気をつけていただくきっかけになる検査と思っていただければいいと思います」 なるほど、『スキャン』からは今がんである可能性は低いという結果がわかったが、『ナビ』の結果から、実は肺がんと大腸がんになりやすい体質だから注意すべきということらしい。僕の場合、結局は酒、タバコを控えるということになってしまうのだが……。 『マイシグナル®︎シリーズ』の使い方としては、『ナビ』の結果を参考にして日頃の生活習慣に気をつけたうえで毎年1回『スキャン』で現在の自分のがんリスクの状態をチェックするのが良いそうだ。決して値段は安くないが〝手遅れ〟になるのが嫌な人は定期的にチェックしてもいいのかもしれない。
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