社説:観光と地方財源 持続可能性と理解が不可欠
訪日客の増加を受け、観光地で住民生活や自然などへの悪影響といった問題が深刻化している。解決に向けた財源を地域がどう主体的に確保するか。自治体の判断が問われている。 富士山では今年7月、山梨県側で入山規制を導入した。県が設けたゲートで2千円の通行料支払いを義務付け、1日当たりの上限を4千人とした。 登山道の混雑解消や危険な「弾丸登山」を防ぐ狙いで、登山客は8月中旬までで前年比1割減った。だが、規制がなかった静岡県側は増えた。両県でどうバランスをとるのか、検証と議論が求められよう。 立ち入りに料金を課す「入域料」は混雑対策の一つで、昨年は広島県廿日市市の宮島で「訪問税」が導入された。西表島がある沖縄県竹富町でも制度化を検討している。 いずれも世界遺産を抱える著名な観光地で、オーバーツーリズム(観光公害)に直面している。人口減で地方財政が厳しさを増す中、地域の特性に応じた財源確保に知恵を絞る姿勢は各地の先例となろう。 ただ、負担を求める理由があいまいでは、住民よりも取りやすい観光客を狙った安易な発想と映る。 大阪府は来年の大阪・関西万博を見据え、訪日客を対象とする「徴収金」の導入を検討しているが、有識者会議では「外国人のみが負担する根拠はあるのか」と公平性を懸念する指摘が出たという。 兵庫県姫路市では、市民以外の姫路城の入城料を市民の2~3倍に引き上げ、「二重価格」とする方針が浮上している。当初は外国人に限り4倍に値上げする案だったが、市議会から慎重意見が相次いで修正した。 市民と観光客、さらに外国人客を明確に区別するのは難しく、拙速な制度化は混乱を招こう。持続可能な財源とするには、広い理解と協力を得る姿勢が欠かせない。 京都市では2023年度の宿泊税収入が過去最高の52億円に伸びた。税額引き上げを検討している。負担増となる宿泊客にとどまらず、市民にも使途と効果を丁寧に説明すべきだ。 今年上半期の訪日客数1778万人、観光消費額約3兆9千億円はともに過去最大だった。 国もオーバーツーリズム対策を打ち出してはいるが、都市部以外への誘客や交通分野の規制緩和など従来策にとどまり、実効性と支援は物足りない。 税収が400億円規模に膨らんだ国際観光旅客税(出国税)を自治体が活用できるよう、地方の裁量を広げる発想が必要ではないか。 京都観光が盛況の一方、東京や海外の資本に利益が流れ、地元が十分に潤っていないとの指摘もある。地方財政の安定につながる税配分の抜本改革も求めたい。