44歳で「ヘビの刺青」を入れた女性の壮絶な半生。両親の死を経て「今がもっとも楽しい」
変わり果てた姿で見つかった父
緒月さんの育ての父親は、勤務先の寮を出たきり行方不明になっていた。そして捜索願が出された数カ月後に、彼の実家付近で首を吊っている姿で発見された。 「最後、父の財布には32円しか入っていなかったそうです。発見された場所も父の実家からすぐの場所なのに、実家を訪れた形跡はなかったと聞きました」 緒月さんは、自身の家族の掛け違いをこんなふうに振り返る。 「母は、父が亡くなる前、『もう何年もしたら、お父さんと再婚してもいいなぁ』と言っていたことがありました。けれども、その気持を伝えることなく父は死んでしまった。父にしても、何か悩んでいることがあってもそれを口にせず、そっと実家近くの場所で死んでしまいました。 私の両親は、本当の気持ちを伝えるやり方は他にもあったはずなのに、どうしてもそこにたどり着くことができなかった人たちなのだと感じます。不器用な性格といえばわかった気にもなりますが、もっと異質な、人付き合いにおいて重要な要素が欠けていたのではないかと思うんです。家族になるにも、向き不向きがあるんです。私にとっては、こうした2人のすれ違いは、大きな学びでした」
「ヘビの刺青」を身体に入れた理由
現在、緒月さんは「今がもっとも楽しい」と語る。それは自らのセクシャリティに正直に生き、10代から憧れていたという刺青を身体に入れたことも関係するかもしれない。 「私は中学生くらいのときに同級生の女の子と性的な関係になって以来、男性も女性も性的な対象としてみることができます。現在、プライベートでは、とある女性とパートナー関係にあり、来年には同性婚を視野に入れています。母から『お前は巳年生まれだから性格がしつこい』と散々言われ続け、ずっと嫌いだったヘビですが、それならばいっそ身体に刻んでしまえと思うくらいには吹っ切れました。今では、新しい自分で生きていくためのシンボルです」 緒月さんを理不尽に苦しめ、むらのある愛し方で翻弄した母親は肺炎でこの世を去った。母親の本音は、ついぞわからなかった。 皮肉にも母からの暴言に着想を得た、ヘビの刺青。愛情の欠片を探して這いずり回るのではなく、お互いを愛でながら前進する2匹のヘビになれますようにーー。緒月さんとパートナーの幸福をそっと託したくなる。 <取材・文/黒島暁生> 【黒島暁生】 ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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