過適切にもほどがある!(レビュー)
『人間はどこまで家畜か』を読み始めてすぐに頭に浮かんだTVドラマがあって、それは先日終わった『不適切にもほどがある!』。令和の世にタイムスリップした昭和末期のおっさんを通してニッポンの来し方を描く秀作で、肝は昭和61年のあたりまえと令和6年のあたりまえの衝突にある。 失われたン十年の間に政治的正しさ≒コンプライアンス≒意識の高さが昂進して、生きづらさが減る者と息苦しさが増す者の双方が生まれてるのが今。だとすると、この新書で著者の熊代亨が現役の精神科医として示す現状(精神医療の患者は増える一方)や未来図(2例あってどちらも暗い)は、笑えてジーンとくる『不適切~』の世界の見事な裏返しに思えるのよ。 自己家畜化とは動物がヒトから強要されずに家畜へと進化することで、イヌネコのみならずヒトにも起きる。ヒトの世で自由安全清潔健康秩序その他いろいろが増してきた基礎には、暴力性が下がって協調性が上がるような進化があって、これがヒトの自己家畜化。 身体面での家畜化と文化面での家畜化があり、そのうちソフト面が加速しすぎて、動物としてのヒトが追いつけなくなってませんか? というのが著者の最大の問いなんだけれど、これに答えることは、この国で生きるヒトには難しくない――子供もイノベーションも政権交代も生まれないのは、自他の家畜化に熱心なあまり、動物としての野性を抑制してきた結果。過適切にもほどがある! [レビュアー]林操(コラムニスト) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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