トヨタ主導で月面探査が正式決定。アルテミス計画における“ルナクルーザー”の現在地
ランクルで培ったノウハウで道なき道を走破
オフロード走行性能については、トヨタ・ランドクルーザーで培ってきた知見が存分に活用される。そこに4輪独立インホイールモーターによる駆動制御を始め新開発の電動化技術を組み合わせ、クレーターや岩石、傾斜をものともせずに未知の月面でも安心・安全な探査を可能とすべく開発が進められている。ここで得られた知見は、地球上のあらゆる場所で安心安全に走行できる技術として還元される。 また、タイヤにはブリヂストンが開発中の「オール金属タイヤ」を採用。月面は、昼間は摂氏120度まで上がり夜間はマイナス170度まで冷える。路面はサラサラの細かい砂地だ。加えて放射線が容赦なく降り注ぐ過酷な環境であり、ゴムはまったく使い物にならない。そこで、ブリヂストンが金属による特殊なタイヤの開発に取り組んでおり、現在は第2世代に進化している。
GPSが使えない状況で自動運転をするには?
オフロード自動運転も、道も地図もない月面では非常に重要な技術になる。地球上とは異なりGPSが使えない状況下でも、ルナクルーザーは自らの位置を推定し、さらに障害物や路面の勾配など周辺環境を把握して、安全に走行できる経路を策定しなければならない。 そのため、電波航法や恒星の位置から車両の姿勢を推定する(スタートラッカー)、三次元の加速度から速度や移動量を推定する慣性航法などのさまざまな課題の克服に向け新技術の開発が進んでいる。 こうした新技術は月面だけでなく、地球上でも道なき道を安全に走ることのみならず、災害時における遠隔・自動による状況確認や、危険な地域への物資輸送などへの貢献が期待できるという。
密閉空間での快適な居住空間と操縦機能
4つめが居住性、視認性、操作性などのユーザーエクスペリエンス(UX)である。キャビンは4畳半のワンルームに匹敵するが、実際の月面探査では荒涼とした月面を1日最大8時間、6日間連続でオフロード走行する。 そんな状況下でのクルーの精神的負荷は非常に高い。作業効率や意欲の低下などを招く可能性もある。そこで、できる限り快適な居住空間と操縦機能を提供し、精神的な負荷と操作ミスを軽減・低減することに開発の主眼が置かれている。 原寸大のキャビンモックアップを製作し、さまざまな分野から検討を加え、またドライビングシミュレータも併用しながら検証を加えている。すべては安心・快適な移動のためだ。 月面探査の話なんて関係ないと思いきや、実はルナクルーザーには地球上のあらゆるモビリティの進化に貢献するさまざまな要素技術が盛り込まれている。 月面への着陸および有人活動の開始時期はまだ流動的ながら、そう遠い日のことではないようだ(2029年に打ち上げ予定)。その日を目指してルナクルーザー開発はさらに加速しているが、その過程で生み出された知見や技術は、順次、我々のモビリティに反映されていくことになるだろう。