〈静けく豊かに 建築家・谷口吉生をしのぶ(下)〉色あせぬ美、心に響く光 「会う館」人を輝かす
16日に87歳で死去した金沢ゆかりの世界的建築家、谷口吉生さん(文化功労者・日本芸術院会員)が最晩年に手掛けたのが、北國新聞社が建設した富山新聞高岡会館(2022年9月開館)だった。高岡古城公園に面して建ち、夜になると、伝統町家の千本格子「さまのこ」をイメージした外観から優しく灯が漏れる。このしつらえが評価され、今年、高岡会館は照明学会の「照明施設賞」を受けた。畢生(ひっせい)の作品から、巨匠が心を砕いた「光」と「美」が見えてくる。(編集委員・坂内良明) 19日、照明学会北陸支部のメンバーが高岡会館を訪れた。谷口さんとともに照明デザインを手掛けた「Lumimedia lab」(東京)の岩井達弥代表(69)が谷口建築の哲学の一端を説明した。 ●光だけが存在 岩井代表によると、谷口建築ではシンプルでミニマムなデザインが要求される。照明についても「器具を目立たせず、光だけが存在する」ように見せることが求められた。 2階の「水庭」では、水が流れ落ちる部分に光源が設けられ、庭全体が幻想的に浮かび上がる。隅々まで工夫が施された谷口建築を岩井代表はこう語る。「シンプルで美しく、時間がたっても色あせない」 谷口さんと一緒に高岡会館の設計に携わった建築家の村松基安さん(67)によると、水庭には「訪れた人の心を落ち着かせる工夫」が施されている。「いすに座って水庭を眺めると、視界から周囲の建物が消え、見る人と庭が一体化する」 谷口さんが追求した「美」は造形美だけではない。そのまなざしは常に、建物を利用する人々の「心」に向けられた。村松さんが強調する。 「目に見えるものは限りなく美しく表現する。でもそれだけではなく、そこで過ごし、生きる人たちの心をいかに輝かせるかまで考え抜いて、谷口さんは設計に心血を注いだ」 確かに谷口さんは2022年9月、高岡会館の開館式典後、こう話していた。 「会館はまさに『会う館』。ここから日々発信される情報に触れながら人と人が出会い、語り合う交流の場になってほしい」 会館完成時、高岡市の角田悠紀市長は「高岡の文化に誇りを持てる建物となった。この建物に恥じないよう市としても古城公園を整備したい」と述べた。歴史都市に深みと厚みを加え、そこに暮らす人を輝かせる。それが谷口建築だ。 ●若者の憧れ 高岡会館について、おおみ設計(富山市)の近江吉郎会長(75)は「一分の隙もない緊張感がある。学ぶことが多い」と語る。その言葉通り、谷口さんの建築に憧れ、学ぼうとする若者は多い。 「繊細につくり込まれた谷口さんの建築を見て、すごく勉強させてもらっている」 21日、谷口吉郎・吉生記念金沢建築館で企画展の内覧会に参加した金沢工大大学院建築学専攻1年の久木田夏鈴さん(23)はそう語る。同1年の濱村美里さん(23)も「近代的でありながら日本の伝統を重んじる建築。もう一度、谷口建築を見て回ろうと思う」と死を悼んだ。 奇をてらわず、「用」と「美」を両立させる谷口建築は、長く色あせることなく、建築家や学生の手本になる。優れた空間は、ある時はわれわれの心を静かに落ち着かせ、またある時は豊かに輝かせる。谷口さんがこの地にともした「建築の灯」は消えない。