ウクライナはロシアに勝てる? 西側諸国の「支援疲れ」が生む悲劇
膠着状態のロシア・ウクライナ戦争。元在ロシア防衛駐在官の佐々木孝博氏は、この戦争は膠着状態から長期化する可能性が高いと指摘する。情勢がウクライナに傾く場合、ロシアに有利に動く場合のそれぞれについて、考えられるシナリオを提示する。 ※本稿は、『Voice』(2024年1月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
膠着状態から長期化
ロシア・ウクライナ戦争の展望として最も蓋然性が高いのは、膠着状態からの長期化であろう。 昨年(2023年)6月のウクライナの反転攻勢が始まって以来、さまざまな戦線において、「ウクライナが南部ザポリージャ州のロシア防衛網を突破した」「南部へルソン州で渡河作戦が成功した」「ロシアの黒海艦隊がウクライナの攻撃により大打撃を受け、艦隊の多くをノボロシスクに移動させた」など、ウクライナにポジティブな報道が多くなされた。 一方で、「東部戦線ではロシア軍が逆に反転攻撃し、いくつかの都市を奪回した」「ウクライナの穀物輸送ルートは、黒海だけではなく、ルーマニア近傍の陸上輸送ルートもロシアによる攻撃を受けた」「(戦争開始以来)2回目の冬の到来に向けて、ウクライナの重要インフラ(電力インフラ)への攻撃が激化し始めた」など、ロシアにポジティブな報道も出てきている。 戦時には、自国に有利な情報は戦略的に情報発信し、不利な情報は戦略的に情報統制するといった対応は常套手段である。総じて考えれば、各々出てくる情報は一つの側面として事実で、隠されている側面の情報は出てこないということである。 両国から出てくる情報を包括的に見れば、「ある作戦は成功し、ある作戦は失敗した」「ある作戦はある時期には成功したが、以後相手側に対応され、同種の成功事例の報道は少なくなった」といった情勢にあるものと考えられる。 換言すれば、地域的・時期的に、限定的に勝ったり負けたりの「いたちごっこ」の戦いを続けているのではないだろうか。 そのような見方からすると、この戦争は膠着状態が続いており、当事国以外の支援体制・制裁体制に大きな変化がない限り、長期化する可能性が最も高いのではないかと考えられる。当事国以外の支援体制や制裁体制が、長期化に影響すると見積もられる要因は以下だろう。 第一は、ウクライナ支援は現状またはそのプラスアルファレベルで、ゲームチェンジャーになるほど格段に支援がなされることはないが、支援そのものは今後も必要量の弾薬を含め現状どおりに実施されること。 第二は、プーチン大統領は今年3月に再選され、政権を安定させたうえで、世論を気にせずにより強硬な施策(総動員)などが可能な状態になり、継戦能力に大きな問題が生起する可能性は低いこと。 第三は、イラン、北朝鮮などのロシアへの直接的な軍事支援体制は構築されており、また、中国やインドのエネルギー購入による経済の下支え、軍民デュアルユース技術の支援による軍事力整備の土台が継続すること。 このような要件に大きな変化がなければ、膠着状態から長期化になるシナリオの可能性が高くなるであろう。