ウクライナはロシアに勝てる? 西側諸国の「支援疲れ」が生む悲劇
情勢がロシアに大きく傾く場合
では反対に、戦争の情勢がロシアに大きく傾く場合はどのようなことが考えられるであろうか。 第一は、戦況がウクライナに有利になった場合と裏返しのシナリオであり、「西側諸国等の支援がいままでのようにできなくなった場合」である。実際、ウクライナへの「支援疲れ」の兆候は見え始めている。 昨年9月20日には、ポーランドのモラヴィエツキ首相が「ウクライナへの武器供与を止めて、自国の軍備を増強する」と発言した。その後、複数の高官が「ポーランドは自国の武器備蓄を拡充する必要があるとの意味合いだ」として火消しに走った。 総選挙を控えていたこともあり、与党「法と正義」はウクライナへの従属的姿勢を極右勢力から批判されていることが背景にあったと見られている。10月26日には、欧州連合(EU)首脳会議で、スロバキアのフィツォ新首相が「ロシアの侵攻を受けるウクライナへの武器供与を停止する。人道的な支援は続ける」と正式発表した。 さらに、ハンガリーのオルバン首相も同日、EU執行部提案の対ウクライナ追加財政支援に反対する考えを表明した。ウクライナ支援に対するEU内での意見対立が露呈した形だ。 主要な軍事支援国である米国、英国、ドイツ、フランスなどは現状の姿勢を継続する見通しで、当面は大きな影響は出ないだろう。 ただし、米国においても、今年は大統領選挙を控えており、共和党政権に代わった場合はウクライナ支援が後退する可能性もある。各々の国家の事情で「ウクライナ支援疲れ」が見え始めていることは念頭に置かなければならないだろう。 「支援疲れ」だけではなく、国際情勢がウクライナ支援に及ぼす否定的な影響もある。昨年10月以降に激化してきた中東情勢である。イスラエルと武装組織ハマスの対立で本格的に軍事衝突するなか、米国はウクライナとイスラエルでの二正面作戦を強いられている。 中東に展開する米国艦隊に対して、イスラム武装勢力による攻撃も発生しており、米国は実質的に中東の紛争に「参戦」している。そのような状況では、米国がウクライナにこれまでどおりの軍事支援を継続できるかはわからない。 ウクライナ支援のみの段階でも、米国における弾薬の備蓄量不足が問題視されていたという報道もあった。先に触れたように、米国をはじめ西側諸国の支援がいままでどおりに継続できれば、可能性として高いのは、膠着状態からの長期化である。 支援が格段に進めば情勢はウクライナに傾き、支援がいままでどおりに継続できなければロシアが有利になるとも言える。 仮に、各国の国内事情からウクライナ支援の継続が厳しくなった場合には、それらの国から停戦要請といった動きが出てくる可能性がある。実際にスロバキアの国内ではそのような声が聞かれ始めたが、まだ大きなうねりには至っていない。 米国など戦況を左右するような武器を提供している主要な軍事支援国で、停戦要請の世論が高まって政権がそれに動かされるようになれば、ウクライナにとっては不本意ながら、また国際法違反の侵略とわかっていながら、停戦を促すような動きが出てくるかもしれない。ロシアはそのような情勢になることを企図して情報戦を仕掛けてくるはずだ。 さらに、ロシアを利する動きとしては、国際社会におけるウクライナ戦争への関心の薄れといった事態も考えられる。 それは、ロシアの情報戦の結果であるかもしれないし、エネルギー・食料を利用した力による外交などでロシアへの理解国を拡大させた結果かもしれない。いずれにしても、ロシアに有利に働く国際社会の動向についても注視する必要がある。
佐々木孝博(元在ロシア防衛駐在官・元海将補)