食の八面六臂(12月5日)
ご存じ「八面六臂[はちめんろっぴ]」。仏像が八つの顔と六つの肘を持つことを指す。「一人で何人分もの活躍をみせる」との意が生じたのは、あらゆる方面に目を配り、さまざまな手腕を巡らすとの連想からだろう▼食卓のお供のふりかけは、この四字熟語を思い起こさせる。熱々のご飯はもちろん、巻きずし、パスタの味も一層引き立てる。食品関係の業界紙によると、全国の今年度の出荷額は過去最高だった412億円を更新する。物価高が長引く中、おかずを減らせ、弁当作りに重宝する。苦しい家計の「救世主」でもある▼驚くなかれ。「東日本のふりかけの祖」と呼ばれる人物が福島市にいた。食料販売業を営む甲斐清一郎は大正時代、白身魚と昆布を混ぜて粉末にし、のりやごまを加えた。しょうゆの風味が受け、丸美屋食品工業の「のりたま」につながった。生活文化研究家・熊谷真菜さんが著書につづる▼最近は給食で提供する学校が増えている。炊きたてのご飯の香りが苦手という子どもがいるためだそうだ。まさに、八面六臂。「今日は、何味にしようか」と、テーブルの上に手を伸ばす。サッ、サッ。古里のご先祖様からの伝言がふりかかる。食を多彩に、楽しく。<2024・12・5>