《安倍政権5年》「いじめ防止法」成立も自殺など重大事態は減らず
また、法律ができて以降、いじめの認知件数が飛躍的に増えた点にも注目したい。 同法ができる前の2011年度は、いじめの認知件数は7万231件にとどまっていた。しかし同年に滋賀県大津市で中学生のいじめ自殺が起こって以降は2012年度が19万8109件、2013年度が18万5803件、2014年度が18万8072 件、2015年度が22万5132件と増加傾向となっている。 これは、「いじめ防止対策をしているのにいじめが減っていない」というよりは、いじめ認知への認識が現場で高まったことで、「見過ごされていたいじめを発見できるようになった」と見られている。 同法の取組状況の把握や検証を行うために設置された、文部科学省の有識者会議「いじめ防止対策協議会」でも、認知件数が多いことについては「早い段階で発見して、解決に向けた取組ができ始めた」と評価しており、逆に認知件数がゼロ、といった報告をしてくる学校に課題があると指摘している。
「大津」の教訓生かされず、認知件数に地域差も
一方で、いじめによる自殺や、不登校になってしまう、金品を脅し取られるといった「重大事態」に該当する事案は、同法施行後も減少していない。 2014年1月には山形県天童市の中学1年の女子生徒が自殺。2015年7月には岩手県矢巾町の中学2年の男子生徒が自殺した。いずれもいじめの情報を学校が組織として共有しておらず、適切な対応が取られなかった。2015年11月に自殺した茨城県取手市の中学3年生の女子生徒の事案では、自殺を防げなかっただけではなく、いじめを自殺の原因だと認めない市教委の対応に遺族は不信感を募らせた。
大津市のいじめ自殺問題を教訓とした対応が、ほかの地域では取られていない現状が浮かび上がっている。 児童や生徒の問題行動などに関する文部科学省の調査によると、2013年度に起きた「重大事態」は159校、181件だったが、2014年度は394校、449件、2015年度は298校、314件となり、高止まりしている。さらに、現場では、重大事態の定義が不明確だとして、認定に消極的な姿勢が見られることも課題となっており、本来はもっと多い可能性がある。 また、認知件数に地域差がある点も問題視されている。児童生徒1000人当たりの認知件数の都道府県の差は、2013年度の調査では最大で83倍、2014年度の調査では31倍、2015年度の調査では20倍もの開きがある。2015年度は佐賀県や香川県が少なく、京都が最も多かった。「いじめはどこの学校にもある」という目で教員は対処しなければならないが、いじめの認知件数が0件の学校も全体の43.5%に上っている。