ゾンビに噛まれた母親が息子と最後の日々を過ごすゲーム『Undying』、何より力を入れたのは“母子の絆”の描写だった。命がけの母の愛を描いた異色のゾンビサバイバル、その誕生の背景を開発者に訊いてみる
ゾンビに噛まれた母親が、愛する息子とふたりで崩壊した世界を生きる──。『Undying』は、そんな映画のような設定が特徴のインディーゲームだ。 【この記事に関連するほかの画像を見る】 母・アンリンの体はすでにゾンビウイルスに蝕まれており、その症状は日に日に悪化していく。そんな極限状態のなか、彼女はまだ幼い息子・コーディを守りつつ、過酷な世界で生き延びる術を伝えていかなくてはならない……。 このように“親子”という普遍的なテーマを軸とした切なく心動かされる物語と、シビアなサバイバル要素が噛み合わさった『Undying』は、ゾンビサバイバルという人気ジャンルの中でも異彩を放つ一作として、多くのプレイヤーの間で話題を呼んできた。そして来たる7月25日(木)、ついに本作はNintendo Switch向けの移植版も発売を迎える。 このタイミングで、電ファミニコゲーマーでは開発元・Vanimalsのトップを務めるWang Kun氏に対して、本作の開発の背景をお聞きできる機会を得た。“よくあるゾンビもの”に留まらない、深い温かみを持つ『Undying』がどのようにして生まれたのか、そしてどんな表現に力を入れたのかを、本稿では解き明かしていきたい。 同時に、作品の設定にあわせて「もしゾンビアポカリプスが本当に起こったら?」という仮定でいくつか質問させていただいたところ、いずれも快く、そしてユニークな返答をお聞きすることができた。「ゾンビゲームの開発者が、本当にゾンビアポカリプスに放り込まれたらどうするのか?」という視点からも楽しめる内容となっているので、ぜひご一読いただければ幸いだ。 取材・文/電ファミニコゲーマー編集部 編集/久田晴 ■何よりも力を入れたのは“母と息子の絆”の描写 ──今回はよろしくお願いいたします。『Undying』と言えば、やはりゾンビアポカリプスの世界で生きる“母と息子”というところが最大のポイントかと思いますが、この物語を思い描くにいたった背景からお聞かせいただけますでしょうか。 Wang Kun氏(以下、Wang氏): 私たちは「ウォーキング・デッド」の大ファンなので、ずっとゾンビサバイバルゲームを作りたいと思っていました。しかし、主人公の設定には少し変化をくわえてみたかったのです。 野蛮なゾンビや人間の敵に立ち向かうなか、弱く守らなくてはいけない存在を登場させることで、主人公のストーリーがより温かく、意味のあるものに感じられると考えました。そこで、私たちは“母と息子”のデュオを主人公にすることにしたんです。 ──なるほど。ちなみにアンリン(母)と、コーディ(息子)のネーミングに何か意味などが隠されていたりはするのでしょうか。また、ゲームの舞台はアメリカかどこかの街のように見えますが、イメージ元となったような実在の場所は存在しますか? Wang氏: アンリン・チェン(陳安玲)は中国系女性の名前で、コーディはごく普通の男の子の名前です。これらの名前はふっと私たちの頭に浮かんだもので、特別な意味があるわけではありません。 『Undying』のアリエスタウンは、特定の国をイメージしたものではなく、まったく作り物のゲームの世界です。ただ、私たちが本作を作るうえで参考にしたゾンビもののゲームや映画の大半は、世界的にもかなり人気のあるアメリカ製です。だから『Undying』はちょっと“アメリカっぽい”雰囲気に仕上がっているのではないかと思います。 ──先ほど「ウォーキング・デッド」の名前を挙げられていましたが、特に『Undying』を制作するにあたって影響を受けた作品はほかにありますか? Wang氏: 有名な『ウォーキング・デッド』や『This War of Mine』ですね。それ以外にも、おもにローグライクゲームのゲームプレイからヒントを得ました。 ──ゲームの制作にあたり、もっとも困難だったこと、力を込めた部分はどこにあたりますでしょうか? Wang氏: そうですね、『Undying』は重厚なサバイバルゲームとロールプレイングゲームの要素を融合させた作品です。制作の中ではこのふたつの異なるジャンルを、ひとつのゲームの中でシームレスに融合させる必要がありました。 私たちがもっとも手を尽くしたのは、やはり主人公である“母と息子”の絆を効果的に伝えるにはどうしたらいいか、というところです。この調整のために何度も試行錯誤を繰り返し、非常に多くの時間を費やしました。ですので、もしこれからプレイされる方がいらっしゃいましたら、ぜひその部分に着目していただけると嬉しいですね。 ──Wangさん自身が思う、『Undying』のゲーム内でもっとも好きな場所はどのあたりになるのでしょう。また、ゲーム内でも特に「これは!」というシーンがありましたらお伝えください。 Wang氏: 『Undying』では、プレイヤーが訪れるそれぞれの場所に、本当に楽しく魅力的なストーリーとバトルが用意されています。中でも個人的に好きなのは農場と生存者キャンプですね。善と悪、そしてそのどちらともいえないものが混ざり合い、信じられないほどエキサイティングなストーリーが展開されていると思います。 あと、ボス戦は特に難しく、印象に残るポイントだと思います。母子ふたりで挑んでも厳しい戦いになるよう設定していますので。いろいろとお話したいこともあるのですが、ネタバレを避けるため、詳細はぜひプレイヤーさん自身の目で確かめてみていただきたいですね。 ■もし本当にゾンビアポカリプスが起きたら、一緒にいたいのは「ウィル・スミス」 ──ここからは少し趣向を変え、「もし、本当に『Undying』のような世界になってしまったら……」というようなイメージで、いろいろとお聞きしていければと思います。 さっそくですが、仮に『Undying』のようなゾンビアポカリプスが発生した世界に放り込まれたら、何日くらい生き延びられると思いますか? また、生き残るためにどんな準備をして、生き残るためにどんな戦略をとられるでしょうか。 Wang氏: これは面白い質問ですね! 実は、私たちも開発中にそのようなことを自問してみた経験があります。でも正直なところ、開発チームのほとんどは長く生き続けるのは難しいでしょうね……1~2か月ももてば上出来だと思います(笑)。 もしゾンビアポカリプスに直面したら、できるだけ早く田舎に行くことを優先すると思います。人口密度が低いのでゾンビに出会う可能性も下がりますし、自給自足のための道具や環境を手に入れるチャンスもありそうなので。 なので、そんな事態に直面したら、まずは家族や信頼できる友人を集め、武器と食糧・水を準備して田舎に向かおうと思います。燃料も満タンにしておきたいですね。 ──アポカリプス世界で、家からひとつだけ何かを持っていけるとしたら何を選択されますか? Wang氏: うーん……難しいところですが、包丁とかですかね。少なくとも自分を守る手段は必要だと思います。 ちなみに『Undying』には強力な武器がいろいろありますが、皆さんには短剣を試してみることをオススメします。ステルスと組み合わせれば、多くの戦闘をローコストでこなすことができますよ。もちろん、家で強化しておくのはお忘れなく! ──ゾンビアポカリプスの世界のお話に戻りますが、仮に崩壊した街や拠点の周辺を探索しなければならないとなったとき、ひとりで行動しますか? それともチームで動く方が良いと考えられますか? Wang氏: これに関しては、せめてひとりかふたりは連れて行くべきだと思います。ひとりで行くのは危険ですし、孤独すぎます。例えば数人のチームを組むなら、ひとりは基本的なサバイバル・スキルの持ち主で、何が有用で何が危険かを見分けることができるといいですね。もうひとりは、自分だけでは持っていけないもの、動かせないものを扱えるだけの体力がある人が必要だと思います。 ──もし、誰か有名人が一緒にいてくれるとしたら、誰がいいでしょう? Wang氏: (笑)。そうですね、ウィル・スミス【※】を呼ぼうかな。彼はたくさんのエイリアンやゾンビと戦ってきたし、秘密諜報員としてスーパーヒーローを演じたこともありますよね。ゾンビの世界で生き残るため、彼とチームを組むことをノーと言うのは難しいです! ──これは少し哀しい仮定ですが、もしも『Undying』のようにお母さまがゾンビに噛まれてしまったとしたら、どうなると思いますか? Wang氏: もし、私がコーディのような少年だったら、たとえ自分に力がなくともケガをした母を守らなくてはいけないと思うでしょう。そしてもちろん、母にはいつもそばにいてほしいし、そうすればお互いに支え合って、一緒に生きていけると思います。 ■「お母さんへの愛を伝えて欲しい」──日本プレイヤーへもきっと深く“刺さる”『Undying』の物語 ──もし『Undying 2』を制作するとしたら、どのようなストーリーを考えられていますか? 成長したコーディが登場するようなものになるのでしょうか。 Wang氏: 『Undying』のアンリンのような、“ゾンビになりかけ”というハーフゾンビという設定が中心になることは間違いないと思います。が、それが治療法を見つけるストーリーになるのか、あるいはコーディの青春物語になるのか、その答えは我々の間でもまだ出ていません。 もしかすると、『Undying 2』の物語は予測可能な結末ではなく、もう少し変化するものになるかもしれませんね。 ──いまの『Undying』に何かを付け足すとしたら、どんなものが考えられるでしょうか。 Wang氏: マルチプレイヤーモードを追加したいですね。プレイヤーは親子のコンビか、あるいは異なる能力を持つ他の生存者を選び、よりオープンなゾンビの世界で一緒に生き残ることができるようにしたいです。 ──仮に『Undying』が映画化されるとしたら、アンリンとコーディにはどんな俳優を起用したいと考えられていますか? Wang氏: これは嬉しい質問ですね! たしかに、本作は映画化にぴったりな作品だと思います。 実はアンリンについては当初からある人物を想定していまして、その人物と言うのがレネ・リウ(刘若英)【※】です。アンリンのキャラクター造形に際しては、彼女を参考にしていました。 コーディはぜひ、ハーレイ・ジョエル・オスメント【※】に演じてもらいたかったですね。映画『A.I.』で母親に恋するロボットの息子を演じた彼の演技は本当に素晴らしいものでした。あの映画を見直すたびに涙が出てきます。 ──それでは最後に、日本のプレイヤーに向けたメッセージをお願いいたします。 Wang氏: まず最初に、『レディ・プレイヤー1』のセリフを引用して……「私たちのゲームをプレイしてくれてありがとう!」。『Undying』は、生死をかけた息子への母の愛を描いた、特別なサバイバルゲームです。この感動は、東アジアの文化圏に住む皆さんにもきっと深く刺さるはずです。『Undying』をプレイした日本のプレイヤーの皆さんが、お母さんにお茶を淹れてあげたり、ハグをしてあげたり、「お母さん、愛してるよ!」と伝えてくれることを願っています。 “母と息子”というのは分かりやすく、多くの人に伝わる普遍性を持ったテーマだ。しかし、それを“ゾンビもの”と結びつけることによって、『Undying』はオンリーワンの魅力を備えた作品として完成した。冒頭で紹介した設定を聞いただけでも「ちょっと気になる」となる方も少なくないだろう。 そして今回のインタビューからも分かる通り、本作ではこの“母と息子”というテーマを最大限に活かすよう手が凝らされており、故に多くの人に突き刺さる魅力を持つ。同時に、世にあふれる“ゾンビもの”をしっかりと研究しているからこそ、物語の世界へとスムーズに入り込める没入感もあわせ持っている。 『Undying』はPC(Steam)版がすでに発売中、Nintendo Switch版は7月25日(木)の発売を予定している。すでにBeep公式ストア、Amazonにてパッケージ版も予約受付中だ。このインタビューを読んで気になった方は、ぜひゲーム本編でアンリンとコーディの物語を体験してみてはいかがだろうか。
電ファミニコゲーマー:
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