パート主婦も「手取り16万円アップ」の恩恵あり…年収の壁が178万円になった場合に知っておくべき損益分岐点
■130万円稼いでも手取りは103万円と変わらない パートの年収が130万円まで増えると、パート先の従業員数には関係なく、夫の社会保険から外れることになります。 妻からすれば、パート先の社内保険に加入させてもらうか、自分自身で国民健康保険と国民年金に入るかという大きな問題が出てきます。 今回のシミュレーションでは、パート先の社会保険に加入できたことにしているのですが、その場合でも年収130万円に対して手取りは117万円、手取り率は90%まで下がります。 図表2の2段上と比較していただけるとわかりますが、年収が104万円のときの手取りが114万円なのに対し、年収が130万円になっても手取りが117万円なので、がんばって働いても手取りはあまり変わらないのです。 実はその先も大変で、年収150万円になると、それ以降は夫の配偶者控除がどんどん減っていきます。 年収150万円ちょうどの時はまだ配偶者控除は減っていないのですが、それでも手取りが131万円ということで、手取り率は87%に低下します。 178万円まで働くと、手取りが145万円、手取り率81%にまで落ちてしまいます。年収が上がった分、配偶者特別控除が極端に少なくなるため、手取り率が一気に下がるのです。 このようなしくみでは、パートの年収を106万円以下に納めるか、逆に年収200万円以上は少なくとも働かないと、損をしているように感じるでしょう。これが現行制度の問題点です。 ■上限ギリギリではたらくと家計に16万円プラス ➀パート配偶者のケース(変更後) では「103万円の壁」が「178万円の壁」になった場合、パート主婦の年収と手取りの関係はどう変わるのでしょうか。 図表3(次ページに「配偶者の年収の壁(178万円の時)」の早見表)をご覧ください。
下の図表3をご覧ください。 税金が178万円までかからないことによって、手取り率が上から順に、111%、110%、110%、94%、93%、92%、91%となっています。 基礎控除等が178万円まで引き上げられた場合、年収178万円でも、パート収入にかかる税金は0になります。 筆者註※基礎控除等が上がることによって扶養控除や国民健康保険料に影響を与えるかは議論があるところかと思いますが、本稿では夫の配偶者控除等も新基準に合わせて適用されるという前提で考えています。 結果、手取りが当初の145万円から161万円と、16万円増え、手取り率も10%増えて、91%まで高まってきます。 手取り額のカーブがこのような形になった場合、みなさん今度は106万円の、手取り率110%から94%に大きく下がる部分だけを避けようと思うはずなので、106万円以下に抑えるか、もしくは150万円以上働いて、178万までに抑えるという方が増えると思われます。 パートの二極化という感じでしょうか。106万円の壁は残り続けますが、「働くほど損」と感じる年収の幅が緩和されそうです。 ■最低賃金がアップしても問題ない 現状、最低賃金1054円(全国平均)で週20時間働いたとすると、月の収入は9万円ちょっとになります(※)。そうなると社会保険強制加入の月8万8000円を超えてしまうんですね。 筆者註※1カ月=4.3週間として計算しています そうなると手取り率が大きく下がるので、なんとか働く時間を週20時間未満におさえるのが今のパートさんの大勢です。 ここで基礎控除等が178万円になったとすると、今の最低賃金で30時間働いても月13万5000円ちょっと、年間に直しても163万円ほどなので、まだ扶養の範囲内に収まります。多少残業しても大丈夫です。 実は今、最低賃金を1500円に引き上げようという流れがありますが、そうなったとしても週20時間働いて月に12万9000円、年間で154万8000円なので、まだ扶養の範囲内ということになります。 年収の壁が178万円になると、週3ないし週4でパートで働く方にとっては、そこまで壁を気にして働き控えしなくてもよくなるでしょう。「収入を増やして社会保険に入っても、手取り率はそれほど悪くならない」となれば、みなさん社会保険にも入ると思うんです。 厚生労働省が今、「全ての労働者を社会保険に加入させよう」という目標を推進していますが、年収の壁が178万円になることで、それが達成される可能性も高まるでしょう。年金財政も好転するのではないでしょうか。 そう考えると、少なくとも厚生労働省については、この「178万円の壁」案を推したほうが、省の方針と整合性が取れるように感じます。