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半透性とは何か
赤血球を水に入れると破裂してしまう「溶血」という現象がある。これは、赤血球の細胞膜に半透性という性質があるためである。 およそすべての膜には何らかの穴があり、その穴の大きさで全透性、半透性、不透性と分けることができる。 たとえば水の分子量は18であり、ショ糖の分子量はその20倍近い342である。穴の大きさがこの中間ぐらいであると水は通すがショ糖は通さないわけで、このような膜を半透膜という。
溶血は「世界が均一になろうとする」ために起こる
そして生体膜は半透膜である。水は通すが、細胞の中のタンパク質や糖は通さない。そのため、赤血球には水がどんどん流入して破裂してしまうのだ。なぜ流入するかというと、この世界は均一になろうとするからである。 膜を挟んで片方にだけタンパク質や糖がある状態は均一とはいえない。そこでこれらの分子は膜の反対側の水のほうに行きたいのだが、残念ながら半透膜を通ることはできない。そこで水分子のほうが動いて細胞内に流れ込み、少しでも濃度の差をつめようとするのである。 この話は、何も赤血球に限ったことではない。じつは、哺乳類の細胞はみな水に入れるとこうした現象で壊れてしまう。逆に体液より濃度の高い液体に入れると、水が出ていって縮んでしまう。濃度の差がなければよいので、0.9%の食塩水に入れるとちょうど安定する。 このように見かけ上、水の出入りがなくなる外液を等張液といい、0.9%の食塩水を哺乳類の生理食塩水という。 もちろん細胞の中に溶けている物質は食塩だけではないが、問題は分子の大きさであり、分子の種類は問わない。膜を挟んで、通り抜けられない分子のトータルな濃度差がゼロになっていれば構わないのである。病院で受ける点滴や注射の液も、じつは薬効成分に加えて糖(ブドウ糖)や無機塩類などを加えて等張液にしてある。
穴を通れない分子を通過させる「能動輸送」
細胞にとって必要な物質は、半透膜の穴を通ることのできる分子だけではない。生きるためには、分子の大きさにかかわりなく必要な物質を通過させる能力(選択的透過性という)や、欲しい物質は低濃度の側から高濃度の側に、自然の理に逆らって強引に取り込む能力が必要である。 この後者のことを能動輸送といい、私たちの生命活動のかなりのエネルギー(一説によれば20%ぐらい)がここに費やされている。こうした物質の通り道がチャネル、ポンプ、トランスポーターなどと呼ばれるもので、これらも酵素と同じようにリン脂質の二重膜の中に埋め込まれたタンパク質が担っている。 なかでもすべての動物細胞に存在するのがナトリウムポンプというしくみで、Na⁺を排出し、K⁺を取り込むというものである。ただ生物体やその周囲ではNa⁺のほうがずっと多く、その結果細胞膜は基本的に外側にプラスの電荷を帯びるようになる。 そしてこれが後述するさまざまな生命現象に活用されることになる。 なぜナトリウムかというと、それは生命が海の中で生まれたからだろう。海水の塩分濃度は3.4~3.6%であり、この濃度ではさまざまな生体内化学反応は円滑に進まない。生命は海水と自己をまずは区画し、塩分を外に出すところから始まったのかもしれない。 ◆ ◆ ◆ 次回は、棚位にある数が驚異的な赤血球と、そのパフォーマンスについて、お送りします。 *次回は6月20日(木)公開予定です。 ---------- 大人のための生物学の教科書 最新の知識を本質的に理解する 本書の詳しい内容はこちら 生物学の基本から最新の話題まで、網羅的に解説した、「学び直し」に最適な入門書! ----------
ブルーバックス編集部(科学シリーズ)