〈実物大の動く戦車〉〈300台のラジカセコレクション〉 “こどもゴコロ”をくすぐる「大人の自由研究」大特集
“キャビア”が村の特産品に!?
キャビアの“生みの親”、チョウザメ。愛知県豊根村で運送業を営むかたわら、趣味でアマゴの養殖をして地元の料理店に卸していた熊谷仁志さん(65)は、役場からこんな相談を受けた。 「何か、特産品を作れないかな」 すぐに思いついたのがチョウザメだった。稚魚1000匹から始めた養殖は、最初こそつまずいたが3年ほどで軌道に乗り、7年目にキャビアも取れ始めた。 「まだ粒が小さいんですよね。10年たってようやく商品として出せるものが出てきました」。 そして今やふるさと納税の目玉商品。5万3000円の寄付で、25グラムのキャビアが届くという。もはや趣味や自由研究の域を完全に超えている。 「稚魚を除けば現在5万匹です。キャビアは年間60キロ取れますが、ゆくゆくは100キロぐらいに増やしたい。それくらい取れれば立派な名産品になるかな。オスも身を加工して道の駅などで食べられますよ」
クジラに魅せられて…200万円の巻物を購入
何かに特化するというのはグッズ集めの基本のキ。けれども、それが最大の哺乳類“クジラ”となるとどうか……。それを突き詰めたのが細田徹さん(80)だ。 いまから50年ほど前、趣味の磯釣りのために小笠原諸島に行ったところ、体長十数メートルのザトウクジラが2頭、目の前に現れた。 「水面から見せた背中がゆっくりとアーチを描いてね。ただただ圧倒ですよ」 この一瞬で細田さんはクジラのとりことなった。まずは古書店街でクジラの本を買い集めたが、やがて民芸品から古文書、錦絵、フィギュア、骨格標本へと。2万点までは確認したがそれ以上は目下整理中とか。机に並べるのはそれぞれ100万~200万円で購入した江戸時代の巻物だが、奥さんも同好の士で、反対はなかった。 「経営していた電気工事会社を引退し、コレクションも一段落。集めたものは千葉県南房総市の和田浦にある鯨資料館に寄贈したので、みんなに見てもらいたいですね」
集めたラジカセは300台!
FMのエアチェック――昭和の若者はFM雑誌を見ては、流れる音楽をカセットテープに録音したもので、そこで活躍したのが「ラジカセ」。日本の音響、家電メーカーが競って高性能の製品を開発していたから「いい音でしょ」と、語るのは中村雅哉さん(62)。本業は映像制作だ。オーディオに前のめりになったのは高校生の頃だった。 「父親のオーディオでFMの録音をしていたけど、自室にも欲しくてラジカセのカタログを集めて研究したんです」 ソニー、アイワ、シャープ、ナショナル……その中で最初の一台となったのが、ビクターのRC-838だった。欲しい機能を備えた名機で、今もきれいな音を奏でるが、これでは飽き足らず、以来、質屋や廃品業者に通って集めた数は「300台は下らない」。ひと頃は私設博物館も作った。 「今はデジタル一辺倒の時代ですが、メンテナンスして、スペックに見合った使い方をすれば、カセットの方がずっといい音が出ることもあるんですよ」 好きなものについて語る大人たちの目は一様に輝いていたのである。
撮影・福田正紀/本田武士/西村 純 「週刊新潮」2024年8月15・22日号 掲載
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