一部のファンの間で物議を醸すも…Netflix『極悪女王』がプロレス界のタブーに切り込んだワケ。考察&評価
圧巻のプロレスシーン
それぞれアクの強い松永三兄弟や、憎めないオッサン感が染み出す阿部四郎など、コク深い男たちの人物描写はまさに白石ワールド。 さらに、ちょっとした小物やポスターにいたるまで凝りに凝った美術や、ファンシーな80年代ファッションが炸裂する衣装も白石組ならではのこだわりだ。ひやむぎをみんなでつつく松本家の食卓描写や、グレた妹のディテールなども完成度が高い。 圧巻なのが、プロレスシーンである。 『極悪女王』は、リング上で展開するプロレスの試合がアクション的な見せ場となるが、四方の観客から囲まれているプロレスの試合を劇映画としてカメラで切り取ることは意外と難しい。 しかし、寄り引き自在なアングルで選手の動きや表情をしっかりと捉え、攻防の間合いを殺さない、絶妙なテンポの編集でまとめた試合シーンは手に汗握る大迫力だ。 特にエピソード3に出てくる、天井から見下ろしたようなアングルで客席からコーナポスト攻撃にドリーアウト(カメラが被写体から離れていく撮影技法)していくカットは斬新。エピソード4の長与VS飛鳥戦における、ジャイアントスイングで回し、回される一人称視点も臨場感たっぷりだった(このときにレフェリーがコーナーに登って退避しているのもリアル)。
異常とも言えるキャストたちの熱量
『極悪女王』は、テレビ的なプロと映画のプロがそれぞれ持ち味を発揮した結果、「配信」というフォーマットにフィットした新次元の映像作品に仕上がったといえる。 しかし、そんな手練れのスタッフたちからしても、『極悪女王』は思った以上というか、想像を超える仕上がりになったのではないだろうか。 その要因は、オーディションで選ばれたというキャストたちの、異常ともいえる熱量だ。 プロレスラー役を演じた女優たちは、実際にプロレスの道場で練習を重ね、身も心も仕上げたうえで撮影に臨んだというが、このひたむきな努力と情念の爆発が『極悪女王』を比類なき作品に押し上げている。 ダンプ松本を演じたゆりやんレトリィバァは、器用で芸達者なイメージがあったが、それでも愚直に役に挑んでいることが伝わってくる。長与千種を演じた唐田えりか、ライオネス飛鳥役の剛力彩芽もまさに体当たりの熱演で、いままでの印象を覆す化けっぷりだ。 このメインキャストの3人だけでなく、レスラーを演じた女優たちはみんな素晴らしい。クレーン・ユウを演じたえびちゃんはお笑い芸人だそうだが、演技力も存在感も抜群。大森ゆかり役の隅田杏花のシュッとした佇まい、ジャガー横田を演じた水野絵梨奈のジャーマンも見事だった。 ビューティ・ペアのふたりもコスプレっぽくならず、ちゃんと昭和のスターに見える。特にジャッキー佐藤を演じた鴨志田媛夢の、哀しみを漂わせたカリスマ感はなかなかのもの。ブル中野役の堀桃子も、自らのポジションを理解した絶妙な芝居で印象に残る。