「無駄なお金の使われ方をする五輪は終わりに」【松田丈志の手ぶらでは帰さない!~日本スポーツ<健康経営>論~ 第1回】
公的資金を使わずに開催し、興味のない人にはなるべく負担をかけず、アスリートはその自立した舞台で堂々とプレーする――そうした五輪が、実は40年も前に実現しています。 1984年のロサンゼルス五輪は、五輪が商業化された最初の大会として有名ですが、公金を使わずに約2億1500万ドルの黒字を達成した大会でもあります。 主導した南カリフォルニア・オリンピック委員会(SCCOG)のトップであったピーター・ユベロス氏は、公募によって選ばれた会長として知られています。公募の条件は、40歳から55歳であること、南カリフォルニア在住、起業経験者で、スポーツ愛好者であること、経済的に独立していること、そして国際情勢に通じていることの6つでした。 ユベロス氏は、五輪の資金源としてテレビ・ラジオの放送権料、スポンサー協賛金、グッズ製作と販売、入場料、聖火リレー参加料などを挙げ、これらの収入を最大化する一方で徹底的なコスト削減策も実施しました。 競技会場は既存の施設を活用し、新設は必要なものに限定され、選手村は大学の学生寮を活用するなど経済的な効率を重視しました。その結果、ロサンゼルス五輪は黒字で幕を閉じました。 この成功の要因を考えると、資金源の適切な活用と徹底的なコスト削減が重要であったといえます。翻って東京2020大会はどうだったのか。東京2020大会では、結果的に多くの競技会場が新設されました。新設された施設や競技会場の整備や運用は今後、国民と都民が長期にわたって背負うことになります。 また、コストを抑えるには日本の組織委員会と、大会開催の権利を持つ国際オリンピック委員会(IOC)との交渉も重要になります。IOCと対等に交渉ができなければ、「五輪開催に必要なもの」と要求されるままにコストが増え、組織委員会側が考えたとおりの大会にはなりません。実際に東京2020大会でもマラソンコースが東京から札幌に変更になり、女子はスタート時間も直前に変えられたという経緯があります。 ロサンゼルスでは2028年に3度目の五輪を控えていますが、今回も税金は使わずに開催する意向です。1984年の五輪で使われたメインスタジアムも再び使用される計画で、すでに改修工事は完了しています。そのほか、地元プロスポーツチームの本拠地施設や大学の施設を活用することでコストを抑えます。ちなみにプールは、南カリフォルニア大学の野球場に仮設プールを建てる計画となっています。 私は五輪が好きです。アスリートにとって憧れの舞台であり続けてほしい。しかし、無駄なお金の使われ方をする五輪はもう終わりにしてほしいと願っています。 競技会場だってフェアな状況ならそれでいい、贅沢は言わない。五輪が次世代のアスリートの夢の舞台であり続け、応援され続けるためには、かつてロサンゼルス五輪で示したように、五輪が公的資金を使わずに黒字化することを成功とし、興味のない人には極力負担をかけず、アスリートは胸を張ってその舞台でパフォーマンスを発揮し、五輪ファンやスポーツファンが心から楽しめる大会となることが必要なのではないでしょうか。 日本での五輪開催は多くの公的資金に支えられてきました。その方法を変えることは容易ではありません。しかし、前例がある以上、知恵と工夫によって目指すことはできると思うのです。 文/松田丈志 写真提供/株式会社Cloud9