Tychoが明かす「究極のクリアサウンド」を生み出す秘訣、音楽遍歴と進化のプロセス
最新作での新たな挑戦、来日ツアーに向けて
―収録曲についてもお聞かせください、タイトル曲「Infinite Health」ではゲストボーカルを招いていますが、なぜコーシャス・クレイに歌ってもらうことになったのでしょう? スコット:実はずっとファンで、一緒に仕事が出来ないかってずっと機会を探っていたんだ。出会いは数年前、彼がOutside Landsフェスティバルでプレイした時に、ちょっとだけオンラインやメールでコンタクトを取っていたんだ。そこから、ライブのあとに直接会う機会があって、お互いに繋がりを感じたんだろうね。それで今回ようやく実現したんだ。 彼の感性やメロディのセンス、ボーカルの質感……そのどれも本当に美しい。彼がやっていることのすべてが素晴らしいし、芸術性に満ちていて、そこに確固たる意図を感じるんだ。彼が書く歌詞のイメージにも共鳴するというか、僕自身にも共通する経験を語りかけてくれるようで、僕にはすごく共感できるものばかりなんだよ。ちなみに実は、この曲にはフルボーカル・バージョンもあってね。今作はなるべくインストゥルメンタルな作品にしたかったから、ボーカルは敢えて控えめに使ったんだけど、フルバージョンも近日中にリリースする予定だよ。 ―その「Infinite Health」のイントロで使われているシンセサウンドが好きなのですが、どんな機材やソフトを使っているのでしょうか? スコット:もし、アルペジエーターがかかった、シーケンスされたモジュラー・シンセサイザーのように聞こえる部分を指しているんだったら、それはNative InstrumentsのReaktorのことだね。モジュラー・エミュレーションの音色のひとつなんだけど、面白い音だよね。この音を見つけた時「わあ、すごい!」って思った(笑)。このサウンドが曲全体にインスピレーションを与えてくれたと思う。最初のこの部分を基盤にして、曲全体を作り上げていったんじゃなかったかな。 ―次に「Restraint」ですが、ギターのトーンが絶品ですね。この曲のギターはどのように音作りをしたのでしょうか? スコット:ありがとう。それはサンプリングだね。サンプリングしたへフナー・ベースをキーボードで演奏したんだ。バイオリン・ベースに似ているけど、高い弦と高い音だけしかなくて、しかもそれをかなりピッチを上げてから、サンプラーを通してキーボードで演奏したんだよ。ギターが弾けるようになる前は、サンプリングされたギターや、ギターに近い音のシンセサイザーの音色(パッチ)を使って演奏していたんだけど、今作にもそのやり方を取り入れて実験してみたかったんだ。このサンプリングは、「Infinite Health」と同じものだよ。メインのコードやコーラス部分で入ってくる、基本的なコードを使っている。アルバム全体で他のいくつかの曲にもこの音色を使っているんだけど、この作品に多大な影響を与えてくれた音色なんだ。 ―私は常々、ベースをピックで弾く曲が世の中に増えればいいなと考えていて。「DX Odyssey」でもベースがかなりアクセントになっている印象を受けましたが、どのような狙いがあったのでしょうか? スコット:(笑)僕もピックで弾いたベースの音が好きだよ。あのうねるような、攻撃的な感じがいいよね。ベースのサウンドそのものが好きというのもあって、今回のアルバムにはシンセ・ベースをたくさん取り入れている。ピッチを変えたベースラインを作って、その後ろに同じようにプレイするシンセ・ベースを重ねていくというやり方をしてみたんだよね。それで、深みのあるエレクトロニックなサブ・ベースの音を作り出しつつも、ハーモニクスとドライブの効いた、攻撃的な雰囲気の、ハイブリッドなベース・サウンドに仕上がったんだ。僕は昔からずっと、ドライブがめちゃくちゃ効いたベースサウンドが大好きだから。 ―今作で新たに導入した機材であったり、新たに試みたことがあれば教えてください。 スコット:基本的にはMinimoogを使っているね。Minimoogはずっと、僕のメインの機材だから。ただ、このアルバムに関して言うと、そのMinimoogのエミュレーションを使うことにも挑戦したよ。具体的には、Universal AudioのUAD x Minimoog Model Dと、SoftubeのModel 72という2つのエミュレーションだね。すごく優秀で、ミックスの中ではほとんど違いが分からないくらいなんだ。実際に、Minimoogで作った曲もこうしたソフトウェア・シンセサイザーに変換してみたんだけど、そうすることでかなり自由度が高まったよ。結果的に、実際のレコーディングでは実現出来なかったことも試すことができた。 たとえば、「Consciousness Felt」のリード部分。最初は閉じられたシンセサイザーのサウンドでレコーディングしていたんだけど、ミキシングの段階でソフトウェア・シンセに移行してから、フィルターをどんどん開けていって、結果的に完全にオープンな状態にすることで、すごくクールなサウンドになったんだ。まるで新しい音の空間に辿りついたような感覚だったよ。 ―今回のアルバムではコラボレーションが多くの成果を挙げていますが、他にも一緒にやってみたいアーティストはいますか? スコット:Duskusは今、もっとも好きなダンス・ミュージック・プロデューサーのひとりだね。ジョイ・オービソンもすごく好きだよ。彼らのことは本当に尊敬している。いつか彼らと何か作ったり、僕の曲をリミックスしてもらえたらすごいことだよね。 ―ジョイ・オービソンはどんなところが好きですか? スコット:90年代、Jonny Lにすごくハマっていたんだけど、その時代のドラムンベースは攻撃的で、仄暗さや不安感がつきまとっていて、そういうサウンドに惹かれていたんだ。そこではメロディやアレンジはそれほど重要ではなく、エンジニアとしての技術的なスキルがすべてだった。ベースの音が本当に素晴らしくてね。僕にとって、ジョイ・オービソンの作品には、現代版のJonny Lみたいに感じるものが結構ある。とても優れたエンジニアリングが施されたサウンドで、どの音も非常に考え抜かれていて、味わい深く表現されている。プロデューサーとして心から尊敬しているし、目標にもしていきたいけど、僕とはまったくの別次元にいるような気がするよ(笑)。 ―今作は比較的ダンサブルな曲も多く、非常にライブ向きな印象を受けたのですが、ツアーの演奏面で新たに挑戦することはあるのでしょうか? スコット:そうしようと意識していたわけではなかったけど、収録曲のほとんどがツアー向きだったのは非常に良かったね。ライブ・バージョンに変換するのは、今作がこれまでで一番簡単だった。すべての音色や処理にソフトウェアを使っているから。これまでのようにアンプやらたくさんのペダルやら、色々な種類のシンセを使っていた頃とは違って、同じチェーンを引き出せば良かったから。これまでは、パッチの写真をたくさん撮って、それをプラグインで再現しようと試みてきたんだけど、実際に同じような音になっているか自分でもわからないことが多かったんだ。でも、このアルバムでは、ほぼ1対1の翻訳ができたような感じだった。同じプラグインを引き出してライブで使う、ただそれだけだから。 もちろん、技術的な難しさはあるよ。リアルタイムでたくさんのプラグインを使うとなると、かなりの処理能力が必要になるからね。すべてをバランスよく調整して、効率的にプラグインをプレイする方法を見つけることが、技術面における最大のハードルだったね。 ―ライブで演奏するのが楽しみな『Infinite Health』の収録曲を教えてください。 スコット:今のところ、「Phantom」を演奏するのが楽しそうだと思っているよ。「Green」もよさそうだね。ただ、「Green」自体は今回のアルバムで最も難しい曲だった。曲として書き進めるのも、ミキシングも本当に難しくて、自分が思い描いていたようなサウンドにするのがすごく大変だったんだ。それをライブ・バージョンに落とし込む作業は、まるで一から曲を作り直すような作業だったよ。あとは、「Totem」がライブでいちばん聴き映えする曲になっていると思うよ。実際、アルバム・バージョンよりも好きなんだ。ライブでこそ、力強いサウンドを押し出してくれる曲だね。 ―来年1月に来日ツアーも決まりました。どんなライブになりそうですか? スコット:映像や照明に関しても、それぞれの効果がどう作用し合うのか、じっくり時間をかけて検討したいと思っている。サウンドを新しい方向へ進化させて、全体をもっと感覚的で生々しくてドライブ感のあるものにするために、今はいろいろと考えているところだよ。常にそういうことは考えてきたけど、ようやくここに来て、その程よいバランスを発見したような気がするんだ。ライブがアルバムを聴くのとは違った体験になるように、曲を昇華させていけたらと思っている。 --- TYCHO Japan Tour 2025 [大阪] 2025年1月30日(木) BIG CAT [東京] 2025年1月31日(金) Spotify O-EAST OPEN 18:00 / START 19:00 ティコ 『Infinite Health』 発売中 国内盤CD:ボーナストラック追加収録、解説書封入
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