Age Factoryの最新作『Songs』。武装を解いたロックバンドが見せる眩しくて美しい光
3人組のロックバンド・Age Factoryが、ニューアルバム『Songs』を引っ提げたツアーを3月17日よりスタートさせる。
Age Factory=時代の創造。今はクソみたいなバンドばかりだし、俺らが意識改革を起こさないと。ファーストアルバムが出た8年前、20代前半の清水英介(ヴォーカル&ギター)はこのように言い放った。今どき珍しいビッグマウスや眼光の鋭さに惚れたのも事実だが、時が経ち、バンドの支持層が広がるにつれて変化は起きていく。特にコロナ禍に生まれた前2作品は内省の色が濃く、今は牙を剥く時期ではないのだと思っていたが、実際は、蛹が美しい蝶になるのを待つ劇的なメタモルフォーゼの時間だった。生まれ変わった眩しさで響く最新作『Songs』がとにかく素晴らしい。不快感や怒りはもういらない。ロックバンドが見せる美しい光を届けたい。全員を引き連れていい未来が見たい。そんな気持ちに貫かれた全10曲。彼らが本当に時代を創っていく日がついに来たと感じる。久々に会った英介の表情は、憑き物が落ちたように穏やかだった。
コロナのタイミングでくらった絶望
ーーすごくいい作品。これを待ってました。 「あぁ、うれしいっす。なんか、よく言う原点回帰とは違う、原点が新たにできた、作れたっていうか。バンドとして初めて自分ら3人で作り上げた感覚があって。だから今……〈今までありがとう、めっちゃ楽しかったです〉みたいな感じです」 ーーなんだそのお別れの言葉(笑)。 「や、これお別れの言葉じゃなくて。確実に何かが終わった終止符ではあるけど、それはマイナスではなくて。ちゃんと新たな原点として、ここから始まればいいなと思って。今、事務所からは独立して、完全に自分たちでやってるんですよ」 ーー今回はミックス、マスタリングまで自分たちですよね。 「うん。最初からそういうアルバムにしようって決めてた。スタジオに3人で集まってイチから作って、ミックスからマスタリングまで。それで10曲作るっていうのがテーマ。今までだと俺の主張というか、自分が作った曲だから、みたいなところがあったけど。今回はほんま、俺が歌詞を書くように増子くん(増子央人/ドラム)にビートを入れてもらったし、ナオティ(西口直人/ベース)にもフレーズ考えてもらって。任せてみた。だから展開とかも〈増子くん、そんなの好きやったの?〉みたいな発見があって、それもデカかったですね。初めて全部自分らでコントロールしようとしたからわかったこと。そういうことも、このタイミングやからこそできたんかな」 ーーコロナが明けた今ってことですか。 「うん。コロナ禍で『EVERYNIGHT』作った時、石井さんは、ちょっと内向的すぎてちっちゃい、みたいなこと言ってたけど」 ーーそこまで言ってない(笑)。攻める気満々だった『GOLD』に比べて内向的になった、とは言いました。 「うん。でも俺ちっちゃい音楽ってけっこう好きで。そのよさに気づいた。小さい音楽もすてきよねって思う」 ーー外への広がりを意識しない、個人に密接した音楽。 「そう。俺は今回のアルバム、すごく素朴な感じがするんですよね。それはファンっていう存在が見え始めたから。今回、そんなに規模のデカいことを唄ってはいないんですよ。新しい人にいっぱい聴いてほしいとか、ほんま思ってない。むしろ『GOLD』の時に伝えきれなかった部分。それが、ファン、僕らのこと好きな人たち、一人ひとりにちゃんと手を伸ばして一個一個拾い上げていきたいと思うことだった。フェスで、バーッと人がいるところで唄うためにやってるんじゃなくて」 ーーファンが見えてきたのは、気づけばそうなったのか、自分の中で変化があったのか、どちらに近いです? 「んーとね……コロナのタイミングでくらった絶望みたいなもんが、完全に一個の転換期。青年、少年期が終わった気がしてて。今思うとね、ライヴができなかったから、コロナによって情勢が変わりすぎたから、っていうことで生まれたショックではなかったと思う。普通にライヴが行われてたとしてもくらってたと思う。よく、26歳、27歳って言うじゃないですか。まさにそれで。完全にダウナーな状態で、〈バンド辞めよう、音楽したくない〉ってところまで行ったんで」 ーーそこまで追い込まれた? 「うん。前回のアルバムがまさにそうやった。『Pure Blue』は作りたい気分にならない焦燥と、作ることによって生まれる救いを求めてた。でも今回はそうじゃない。救いをちゃんと渡したい。もらったものをちゃんと与えたい。ファンからもらったものがあるし、意外と救ってくれたんはファンとメンバーやったから。そこに対する恩返しアルバムかな」 ーーよく……そういうことを言えるようになりましたね。 「確かに(笑)。そうかも」 ーー最初は、〈俺がAge Factory、お前らわかれ〉みたいな、ガムシャラに駆け上がる上昇志向の塊だった。 「ほんまそう。そんな感じでした。だから楽しいかって聞かれたら、よくわかんなかったっすよね。楽しさよりも怒りとかエネルギーで根本的にブチ抜こう、イラつきの捌け口になればいいと思ってた。JOYというか、楽しいって感覚はあんまりなくて。でもどっかのタイミングで……無理に虚勢を張り続けるのもしんどいなってなったのが、たぶん27ぐらい」 ーー『EVERYNIGHT』にもすでに萌芽はあったんじゃない? あのアルバム、なんとか無理やり怒ってるゾーンを作った印象があったから。 「うんうん。今回はそれもなくそうと思った。テーマとして、ポジティヴを届けたいっていうのが俺らの中にあって。もちろんネガティヴがないとポジティヴも見えないから、そういう意味で〈向日葵〉とかは俺の好きな歌詞の感じ、後悔とか悲しさみたいなニュアンスも入れてますけど」 ーーいい曲です。改めて聞くけど、今回起きたことって、年齢的な変化と片付けていいものなんですか? 「うん。年齢やと思いますね。で、自分でもそこに気づいてるから、最初の頃の歌、いちばん初めに出したEPとか自分で聴き返すのもけっこう嫌やったんですよ」 ーー作ったのはハタチの頃。 「うん。厨二臭いっちゅうか、ちょっとやりすぎやな、みたいに感じてたんです。でも今はちゃんと肯定できる。それは今回のアルバムができたから。『EVERYNIGHT』の頃は、まだ〈昔の自分、ハズいな〉って思ってた。でも、この前のツアーで初期の曲をやったら、ファンの人たち〈ほんまに待ってた!〉みたいな感じになってるんですよね。なんか……自分たちのやってきたこと、俺は勝手に〈変わったし、間違ってた部分もある〉と思ってたけど、俺らのこと好きな人にとってはそんなタイミング一回もなかったんやなって」 ーーうん、大事なところは変わってないと思います。 「いいアーティストって年齢を重ねて面白い考え方になっていくし、いろんなものを取り入れて、肥大し続けるだけじゃなくて、ちゃんと研ぎ澄ませていける人になりたいから。唯一自分たちが照れて向き合えなかった、喜びとか、光とか、そういう幸せな気持ち。そこに向き合うことによって、もっと新しいステージに行ける気がして。それは音楽どうこうじゃなくて人としての話かもしれないけど。でもバンドって、人がどう変わっていくかだと思うから。だったら、どんどん面白くなるようになっていけばいいなって思ってる」