凍える指先、不潔な絨毯、悪臭のするトイレの中には…イラン女性が告白するヤバすぎる「独房の実態」
教祖に自らを重ねる
看守と女の子たちがいなくなってから、座って温まり、それからお茶を飲もうと思いました。角砂糖をいくつか口に入れたところで、隣の房からうめき声と叫び声が聞こえてきました。女性がすぐ隣にいたのです。同じような状況にいる人間の存在に気づいたのでしょう、彼女は泣いていました。泣きながら呪っていました。私に「あんたの持っているものを、何でもいいからおくれ。痛み止めでも、タバコでも」と言いました。私はすぐに返事をして彼女を落ちつかせようとしました。 小窓の外では、優しい女の子たちが立って「ねえ、独房の人!朝になったら何を持ってきてほしい?」と叫んでいました。「本と雑誌を」と私は答えました。「何でもいいから!」 この独房では本を読む明かりはないし、呼吸できる空気もないのだと、その時は知らなかったのです。 最初は汚いトイレの横で、不衛生な絨毯に寝て、異臭のする毛布をかけて眠るなど不可能だと思っていました。しかし刺すような寒さと極度の疲労で、私は現実に適応するしかないと悟り、絨毯の上に座りました。ボトルに入ったお茶を少し飲みました。 温まって少し落ちついたので、バハオラ(バハーイー教の教祖。19世紀に自ら預言者であると宣言した)がテヘランで獄中生活を送っていたときのことに思いを馳せ、力が湧いてきたような感じがしました。私がいまいるのは、バハオラがその昔、泥のなかで鎖に繋がれていた牢獄と同じ場所なんだ、という気がしたのです。まるで歴史で読んだバハオラの物語が目の前で起きて、私を鼓舞し、勇気を与えているようでした。 私は慎重に毛布を被り、冷たくなってしまったペットボトルを横に置き、臭いトイレに背を向けて眠りました。このとき、彼らはこのような仕打ちで私を貶め、屈服させようとしているのだとはっきりと分かりました。しかし自分はそんなことにはならない、これは精神的な修行なんだと言い聞かせました。ニーチェの「私を殺さないものは私をいっそう強くする」という言葉を思い出していました。 家に帰るときには強くなっていようと決心しました。翌朝早く、鍵とチェーンのガチャガチャいう音とともにドアが開き、法的手続きと、長めの移動の末に役人の手に引き渡され、再び尋問室の椅子に座らされました。 翻訳:星薫子
ナルゲス・モハンマディ(イラン・イスラム共和国の人権活動家・ノーベル平和賞受賞者)