能登半島地震と大雨で甚大な被害を受けた石川県珠洲市の大浜靖弘さん（67）が、鳥取県で行われている高齢者らのスポーツや文化などの祭典「ねんりんピック」のソフトボール競技に出場している。2度の災害で打ちのめされたが、「ソフトボールをしている時だけ、大変なことを忘れられる」と笑顔でプレーする。（鳥取支局　久保田万葉） 【画像】1か月前の大雨では、大浜さんの自宅近くの道路が陥没し、車が転落していた（9月22日、石川県珠洲市で）＝大浜さん撮影（画像は一部修整しています）

試合中、笑顔を見せる大浜さん（20日、鳥取県大山町で）＝久保田万葉撮影

　鳥取県大山町で20日にあった熊本県代表との試合で、大浜さんは石川県代表の9番捕手で出場。敗れたが、仲間に声をかけ続け、終始、にこやかな表情だった。 　元日、大浜さんは自宅近くの神社にいて地震に見舞われた。経験したことのない激しい横揺れで自宅は半壊し、割れた皿などで足の踏み場もない状態になった。 　1週間の避難所生活の後、自宅に戻った。ライフラインの復旧には時間がかかり、水が使えるようになるまで約半年を要した。余震に恐怖を感じながら、給水場からタンクで水を運ぶ日々。「この生活はいつ終わるのか」と嘆いた。

　さらに9月、大雨が襲った。自宅は床下浸水し、周辺の道路は陥没。仮設住宅も浸水し、珠洲を離れた知人もいる。周辺はほとんど家がなくなり、「町が変わってしまった」と絶望した。

　唯一、心が救われたのはソフトボールの練習をしている時だ。珠洲市の職員だった40歳の頃、友人に誘われて参加した。練習場所の金沢市は自宅から約150キロ離れているが、グラウンドで汗を流し、仲間と会話することで、かろうじて精神状態を保てた。水が使えるため、コインランドリーで洗濯し、練習後には温泉に入った。

　今回の出場にあたり、輪島市のチームメートは豪雨の影響で参加を見送らざるを得なかった。自身も「周りは片付けなどに追われているのに」とためらいがあったが、妻は「行っておいで」と快く送り出してくれた。

　19日の開会式後、会場近くにある能登半島地震復興応援ブースで寄付してくれた人を見て、「うれしさに心が温まった」。能登の復旧は進まず、自宅周囲のがれきや流木もそのままの状態というが、「ソフトボールにエネルギーをもらいながら、少しずつ前を向いて進みたい」と話した。