世界のレースに果敢に挑む日本馬、過去最多92頭…「馬体重20キロ減」などコンディション維持に難しさも
海外競馬に挑戦する日本馬が増加傾向にあり、中央所属では今月5日現在で過去最多だった昨年を上回る延べ92頭が遠征した。国内でも高額賞金のGI競走は多く実施されているが、なぜ海を渡る馬が増えているのか。
敗戦教訓に ノウハウ蓄える
日本中央競馬会(JRA)によると、同会所属で初めて海外へ遠征したのは、1956年の日本ダービーなどを勝利したハクチカラという牡馬(ぼば)だった。58年から米国に長期で滞在し、59年のワシントンバースデーハンデという競走で優勝。JRA所属馬として外国で初勝利を挙げた。
環境の変化に敏感なサラブレッドにとって、海外でコンディションを維持するのは容易ではない。出国前には普段過ごす厩舎(きゅうしゃ)を離れて約1週間の検疫に入り、現地へ向かう移動の機内では立ったまま。遠征地にもよるが、輸送に丸1日以上かかる場合もある。芝のGIを9勝したアーモンドアイも2019年にアラブ首長国連邦(UAE)のレースに挑戦した際には苦労したといい、担当だった根岸真彦調教助手は「検疫と輸送で馬体重が20キロも減ってしまった」と海外遠征の難しさを語る。帰国時にも検疫があり、国内のレースよりも疲労の回復が遅くなることが多いため、果敢な挑戦にはリスクが伴う。
日本馬はハクチカラ以降、フランス競馬の世界最高峰レース、凱旋(がいせん)門賞など欧米の主要競走に挑戦し、はね返されてきた。だが、敗戦から好走へのノウハウを少しずつ蓄え、1998年のモーリスドゲスト賞(仏GI)で武豊騎乗のシーキングザパールが日本馬で海外GIを初制覇。以降もメルボルンカップ(豪)や米国競馬の祭典・ブリーダーズカップで勝ち、ドバイワールドカップなど中東の高額賞金GIでも優勝した。日本馬が結果を出せるようになると、同レベルの馬の陣営にも挑戦しようとするムードが高まり、その好循環が遠征の増加に寄与している。
賞金15億円
海外のレースを走るには、高額な遠征費用も障壁となる。海外競馬の登録業務を代行している公益財団法人「ジャパン・スタッドブック・インターナショナル」(東京)によると、中東諸国や香港の主催者は馬の輸送費のほか、馬主や調教師、騎手らの渡航費や宿泊費も負担する。待遇が手厚い背景には日本や欧米の有力馬を招待し、自国の競馬の格式を上げたい意向が働いていると指摘する関係者もいる。また、世界最高賞金のサウジカップ(GI)の1着賞金が1000万ドル(約15億3000万円)など、中東ではオイルマネーを原資とした高額賞金競走が複数あり、これらの地域で特に日本馬の出走が増えている。