未来も見ないし、過去も見ない、今しか見ない――「エジソン」の大バズ以降も、水曜日のカンパネラが変わらず刻み続ける「現在」 #なぜ話題
逃げろとも向き合えとも言いません
詩羽は「いちばん大事なのはライブで後悔しないパフォーマンスをすること。間違えるとかはどうでもよくて、そのとき出せる100%の力を出すのは、足を運んでくださったお客さんへの礼儀だと思ってるんです。ステージに立ったらプロ。そこは絶対に妥協しないポイントですね」と言い切る。でも調子が悪い日もあるのでは、と素朴な疑問を投げかけると「基本、いつも直前まで『ライブやりたくない』って言ってるんですけど(笑)、ステージに立ったら大丈夫なんです。お客さんを見ると自然と『この人たちを楽しませたい、そのためにはまず自分が楽しまないと』って気持ちになれるから」と頼もしいが、意外にも人前に出るのは好きではなかったそうだ。 「得意ではあるけど、好きじゃないなって感じでした。もともと歌手になりたかったわけでもないし、『注目を浴びたい』とか『有名になりたい』みたいな気持ちは今もないですし。でも、ここ1年ほどで『めっちゃ私、歌うの好きなんだな』って思えるようにはなりました。だから武道館ではこれまででいちばんいいライブができたんだと思うんです」(詩羽) 「とても充実して見えますね。幸せなアーティスト生活なのでは?」と水を向けると、詩羽は「どうなんですかね」と首をかしげてみせた。 「大変なこともありますし、楽しいこともある。それがめっちゃ現実的な答えかなと思います。やりたくないこともあるけど、それをやらないと目指せない場所があるならやらなきゃいけないと思うし、ちゃんとやります。楽しい日もあるし、楽しくない日ももちろんある。それはアーティストであろうが、社会に出て仕事をしてる人であろうが同じですね」 武道館には、詩羽に負けず劣らずポップな服装や髪形やメイクの少女たちがたくさん詰めかけていた。彼女たちはきっと『POEM』を熟読し、笑ったり泣いたり歌ったりと全力でライブを楽しみ、一緒に来た友人と「詩羽ちゃん、かわいかったね。かっこよかったね」と言い合いながら帰途についたのだろう。自分のしたい格好をして武道館のセンターステージにひとり堂々と立ち、キラキラと輝く詩羽は、彼女たちの憧憬の的なのだ。そんな「ポップスター」詩羽が、もしかつての自分のように苦しんでいるファンに語りかけるとしたら──。 「自分の問題を解決できるのは自分だけだと私は思います。アーティストであろうと、どうしたって他者なので、できるのは音楽や愛や言葉を届けることだけ。逃げろとも向き合えとも言いません。逃げるのが正しいと思うなら逃げるべきだし、戦うのが正しいと思うなら戦うべき。守るべきものは何なのか、自分の身なのか、心なのか、プライドなのか。どうするのが最善なのか、自分で考える必要があるのかなっていうのが、自分ができるいちばんのアドバイスかなと思います」
水曜日のカンパネラ(すいようびのカンパネラ) 日本の音楽ユニット。2012年結成。初期メンバーはコムアイ(主演・歌唱)、ケンモチヒデフミ(音楽)、Dir.F(その他)。2021年9月に初代ボーカルのコムアイが脱退し、2代目ボーカルの詩羽が加入した。