名張毒ぶどう酒事件と袴田事件、映画「ふたりの死刑囚」を上映へ
「モノクロ」を「カラー」にして伝えたい
映画として上映される前に、2015年7月に東海テレビで「ふたりの死刑囚」が放送された。視聴者から「奥西さん、袴田さん可哀そう」「なぜ司法はここまで放っておくのか」「検察は証拠を出さないのか」などの反響があった。そして10月4日に奥西さんの訃報が届いた。 名張毒ぶどう事件は50年以上前の事件であり、白黒映像しか残っていない。「過去の事件はどんどん忘れ去られていきます。そこでモノクロの古い事件をカラーでイメージできるようなドキュメンタリーを作りたいと考えました。そのとき、今を生きる袴田さんを撮ることに意味があるのではないかと思いました」。 袴田さんは長い間狭い拘置所で死の恐怖にさらされていたため、現在も拘禁状態が続いている。そして袴田さんの姉・秀子さん(82)が弟の巌さんを真摯に支えている。作品の中で秀子さんが静かに語る「これも運命」という言葉が印象的だ。「司法に対して怒りはないのですか?と秀子さんにお聞きしたら、『それ色々な人に聞かれるからもううんざり』と言われてしまいました(笑)。今までたくさん闘ってきて、その結果80歳を過ぎて山を登り切って下を見おろしたときに全てを達観して『運命だ』と感じられたのではないかと思います」。 秀子さんは警察や司法に直接的な怒りを見せない。1人ずつ裁判官が変わればみんな変わり、今後司法全体が変わっていくだろうという草の根的な信念をもっていることを鎌田さんに語ったそうだ。
ローカルからの発信を強みに
近年、テレビ離れが指摘される中で、鎌田さんは地方テレビ局の強みを活かした報道を志す。「地方のドキュメンタリーを見て、東海地方の人は羨ましいと言ってもらえたら嬉しいです。ローカルにしか作れないもの、そしてそのお得感はテレビの生き残りにもつながると思います」。 今後もドキュメンタリーの撮影には強い意欲を持っている。「奥西さんが亡くなった後、妹の岡美代子さんが再審申請を行っています。美代子さんも80歳を過ぎた高齢ですが彼女の命が続く限り、撮り続けていきたいと思います」。 (文・写真 小野 ヒデコ)