名張毒ぶどう酒事件と袴田事件、映画「ふたりの死刑囚」を上映へ
東海テレビ制作のドキュメンタリー映画『ふたりの死刑囚』が2016年1月16日(土)より東京・ポレポレ東中野と愛知・名古屋シネマテークで公開される。名張毒ぶどう酒事件の奥西勝さん(享年89)と袴田事件の袴田巌さん(79)、つまり「ふたりの死刑囚」を追った作品だ。本人と家族、そして弁護団が冤罪を訴え、幾度となく再審を請求し続けてきた姿を描いている。その矢先、奥西さんは2015年10月4日、八王子医療刑務所で死亡した。監督初挑戦の東海テレビディレクター鎌田麗香さん(30)は、「来るべきときが来たと思いました。何回も危篤状態になりながらもここまで命を燃やして、本当にすごいと思います」と語った。
ドキュメンタリーは落とし物を拾う作業
名張毒ぶどう酒事件(1961年)が起きたのは半世紀以上前のことだ。殺人容疑で逮捕された奥西さんは自白を強要されたと無実を訴えた。一審では無罪になったものの、二審では有罪。1972年の最高裁で死刑が確定した。その後、再審を求め続けてきたが、2015年10月、願いがかなうことなく亡くなった。一方の袴田事件(1966年)では、死刑が確定していた袴田さんが冤罪を訴え、2014年に再審を認める判決が出て、大きな注目を集めた。 鎌田さんがこの映画に関わるきっかけになったのは、2014年1月、上司である齊藤潤一プロデューサーから監督をやってみないかと声をかけられたからだ。齊藤さんは2013年に公開された映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』で監督を務めている。鎌田さんは2008年に東海テレビに入社。途中で営業職を経験しながら、トータルで7年間報道記者をしてきた。 現在は遊軍記者としてニュース番組の取材を担当している。1つのテーマを掘り下げるより、目の前の目標を追いかける方が好きなタイプだという鎌田さんは、監督から声をかけられた当時をこう振り返る。「最初は正直あまり興味がもてませんでした。でも、齊藤の“ドキュメンタリーはニュースの落とし物を拾う作業だ”という言葉に深く納得をしたので、やってみようと思うようになりました」。 ドキュメンタリーとは何か? という疑問を鎌田さん自身が探りながら、半年以上の期間、カメラマンと音声の3人で撮影をした。今回初監督を務めたことで、課題が浮き彫りになった。「一番の課題は取材の粘りが足りなかったことです。もう少し人間関係を築いておけばさらに一歩踏み込んだ取材ができたと思うシーンが色々ありました。どこまでカメラが入っていいか悩んで遠慮してしまうこともあったので、そこを突破できるかどうかで取材の差って生まれるのだなって感じました」。 映画の中では再審請求を棄却し続ける「検察の壁の厚さ」を伝えるシーンがある。その見せ方があまり納得していないと悔しそうに振り返る。「取材中も、これでいいのか?と何度も自問自答しながら取り組んでいました。思いつく方法をやりつくしましたが、壁の厚さを伝える手法がもっと他になかったのかと感じています」。