インテリアデザイナー、グエナエル・ニコラが見た「アーティスト須藤玲子」【NUNO 須藤玲子の見果てぬ布の旅 vol.8】
これまでのプロジェクトで須藤が見せてくれたサンプルのすべてを、ニコラは保管している。「須藤さんの『布愛』がつまっている」。小さなサンプルの数々は、ニコラの頭脳にもデータベース化されていて、思いがけず新たなプロジェクトに復活することも。
「重力」さえも超越、自動車や航空など領域はさらに広く
ニコラがデザイン監修したマンション「ザ・パークハウスグラン 神山町」の共用ラウンジに採用した須藤のオブジェがまさにそうで、ソファに腰掛けたときにちょうど目線にくるロープ状のメタルメッシュ。非常に硬質で重厚な印象を与えるのに、実際は軽やかな布という意外性。ニコラがこのプロジェクトの構想を練り始めた5年前のスケッチがそのままかたちになっているかのようだ。「金属などほかの素材も考えたけれど、須藤さんのサンプルに最適なものがありました。大切なのは、材質ではなく表現。私は、重そうに感じるけど軽いというような、振れ幅が大きいものに惹かれる。布はその点でもポテンシャルを秘めている。色、素材感、テクスチャーといったものを自在にコントロールできるのは、布と紙が突出している」。
さまざまな業界でこのポテンシャルを生かすことが必要だとニコラは提言する。「新素材などの技術開発には長けているのに、もっぱらファッションとインテリアとプロダクトに用いている日本の現状はもったいない。『重力』から解放される素材なのだから、建築や自動車、航空など、幅広い分野でさらなる活躍の場がある」と説く。これからも、ニコラの柔軟かつ固定概念にとらわれない思考と須藤のものづくりへの姿勢が重なることで、テキスタイルの表現が拡張していくことだろう。