補聴器が普及しないのはなぜか?~改善できる危険因子・難聴②
前回(『難聴は認知機能の低下を引き起こす?~改善できる危険因子・難聴(1)』)から、難聴と認知症の関係を見ている。難聴は認知症の大きな危険因子(リスク因子)だが、補聴器を使用することで認知機能の低下を抑制できる可能性があるとわかった。しかし日本では補聴器が普及していないのが現状だと言う。 【画像】補聴器が普及しないのはなぜか?~改善できる危険因子・難聴(2) そこで、今回は補聴器普及の実際を見ながら、普及を妨げている原因について考える。
補聴器普及率は15%
まずは、下記のグラフを見ていただこう。 これは、国内外の補聴器メーカー11社が加盟する一般社団法人・日本補聴器工業会が発表した調査資料で、補聴器の普及率を欧米先進諸国などと比較したものである。 2022年の調査結果によると、補聴器を必要とすると思われる人たちの中で、実際に補聴器を使用している人の割合「補聴器普及率」は、日本では15%。欧米先進諸外国などと比べて低い数値となっている。 また、補聴器を買った人たちの満足度を調べた結果でも、諸外国が軒並み7~80%程度なのに対して、50%とこちらも低い。 ちなみに同じ調査によると、補聴器購入額のボリュームゾーンは、1つ(片耳)10~30万円。両耳では20~60万円になるわけだが、これだけ高額のものを買って、それでも「満足していない人が半数」というのはどういうことなのだろうか。
正しい知識が伝わっていない
……と、他人ごとのように書いたけれど、ここでカミングアウトしておくと、実は私も高額補聴器を親に勧めて購入に至らせたにもかかわらず、うまく使えていない現状に心を痛めている一人だ。高いお金を使わせたことを申し訳なく思っているのに加え、うまく使えていないことで親が補聴器を嫌いになり、その結果、認知症に進んだらどうしようという不安を抱えている。 そんなタイミングで、このたび専門家やメーカー団体などを広く取材したのだが、取材した感想を先に言うと、私たちは補聴器についての「正しい知識」をあまりにも持っていない。そして知らないということは自分に大きな不利益をもたらすということを強く思い知らされている。 では、私たちが知らない補聴器の「正しい知識」とは――? それを知るために、前回に引き続き、慶應大学名誉教授で「オトクリニック東京」院長の小川郁先生に教わりながら、まずは補聴器が普及していない理由から見ていこう。